第043話 大枠
こうして、作戦の大枠が決まる。
折しも政府からの発表で、対馬に北朝鮮籍の船が着岸していること、
多数の人員が上陸している模様であること、
対馬の発電所が破壊されライフラインがたたれてしまっていること、
陸上自衛隊の対馬駐屯地の部隊に人的被害が出ていること、
人質が多数取られている模様であることなどが報道される。
そして国会の承認を待たずして、対馬住民の人的被害を最小限に食い止めるためとして、内閣総理大臣より陸海空三自衛隊に防衛出動が発令され、翌日の二十二日にも臨時国会が開かれる見通しが報じられる。
着甲しながら宇がたずねる。「これ、承認されなかったらどうなるの?」
堅剛が答える。「むー、衆参両院とも与党が過半数を握ってるから大丈夫だろうけど」
着甲を手伝ってくれている自衛官の一人が答える。「治安出動を飛び越しての武力出動です。
戦後初のこととなります。
武器の使用に当たっては、正当防衛または緊急避難に該当する場合の要件が無くなります。
つまり相手の攻撃を待たずとも、先制攻撃が可能な状態です。
もっとも、今回の場合対馬の防衛隊に多数の死者が出ている模様です。
正当防衛の説明も十分付くものと思われます」
宇が答える。「なるほど、えーと、ある程度好き勝手やっても、皆さんに迷惑はかからないですか?」
「はい、被害者の救出を最優先にお願いします。それと」
自衛官が一言区切る。「それが主目的ではなりませんが、存分に仇を取ってください」
宇が顔を引き締める。「わかりました」
着甲しながら、輝巳が道照と七生にたずねる。「二人とも、人を撃った経験は、ないよね?」
道照が答える。「ありません」
七生も答える。「ないですね」
輝巳が続ける。「言うまでもないことだと思うけど、木々に覆われた山岳での戦いになると思う。
ジャンプしてAPFSDSで狙うわけだけど、こっちも的を晒すこと、お互いに忘れないようにしよう。
相手が二世代型なら一発で多分仕留められるけど、三世代型なら一発目は割るだけで、もう一発同じところに撃ち込まないといけない」
輝巳は、ここで言葉を句切ると苦笑いする。「そんなのむずかしいよね」
道照は「がんばります」と、七生は「ねらって、みせます」と答える。
輝巳達徹攻兵が着甲準備を整える間にも、習志野からは第一空挺団所属の通信小隊と施設小隊が厚木に集結し、佐世保では日本版海兵隊といえる水陸機動団がひゅうが型護衛艦に乗り込む。
既に、対馬駐屯地の隊員により、厳原発電所の変電設備の被害状況が報告されており、復旧用の資材も組み込まれている。
まもなく、夜が来る。
混乱する住民を不安から解放するためにも、電力の供給は欠かせない。
物事が着々と平行して進んでいく中で、出発前の遊が信世にたずねる。「なあ信世、急で申し訳ないんだが」
「なによ」
「ラインメタル、二門持たせてくれないか?」
「またほんとに急ね、司令と資材課に相談してみるけど何を考えているの」
遊は着甲した腕を胸の前で重ねて語る。「いやさ、敵性徹攻兵に狙い撃ちされないために低空からパラシュート降下するんだろ?」
信世が頷く。
「俺と輝巳はパラシュート要らないから、真っ先に飛び出して威嚇射撃をしたい。
的当て感覚で狙ってくるなら、こちらが容赦しないぞ、と挨拶したいんだが」
信世は素手のままの右手を顎に当てる。「なるほどね、あなた達ならそれができるわね」
それを聞いて皐月が発言する。「三門にしてください。
私も、やれます」
それを聞いて信世や遊が口を開く前に輝巳が口を出す。「的になろうって話しだぞ。
せめて九割出せるようになってからにしな」
ぴしゃり、と言われて皐月は胸の前に右手を当てるとうつむき加減に何かを我慢する。
信世が声をかける。「皐月ちゃんはこれからの人だから、今回はおじさん達にいいところを譲りましょう」
それを聞いて輝巳が、俺たちはこの先無いみたいじゃん、と笑う。
遊が、無いんだよ、と笑う。
皐月は、目を閉じてもう一度何かを我慢すると「わかりました」と答えた。
そこに堅剛が割り込む。「皐月ちゃん、三番目に降りて、最初に着地すればいいんじゃない。
念のため、地上の警護役をやってもらったらどうかな」
宇もそれに乗っかる。「あー、地味だけど、それ大事。〇六式はパラシュート必須だから」
信世がまとめる。「大まかな段取りは決まりね。
詳細はCー2の中で第一空挺団の隊長さんとも話し合って決めてもらえる」
この話を聞いていた他の隊員の連携により、ラインメタルの手配が整うと、八人、兵員輸送用の三トン半トラックに乗り込む。
今回、胸とふくらはぎのマウントには弾倉を装備するが、左腰のマウントには六十四センチ級の光条武器が用意されている。
徹攻兵はこれまで、事実上無力な敵を相手にしてきた。
今度の戦いは違う。
光条武器の用意が、それを嫌でも物語る。
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