第097話 収容

 敵性徹攻兵は、そのほとんどが輝巳を中心に百メートル以内に集まっていた。

 敵性装甲服とアンダーアーマーは、数十年雨ざらしにあったように朽ちていた。

 よっぽど、中の白骨の方がしっかりしていた。

 徹攻兵達は各々、状況を写真に収めつつ、一つ一つを丁寧に回収して袋に収めた。

 まとめて運ぶこともできたが、徹攻兵達は敗者への敬意を示すべく、一体一体を丁寧に運んだ。

 何度か往復してあらかた片付けも見せたところで、遠巻きに状況を見ていた敵側の情報将校が姿を隠すと、時折、更に峰向こうの山間から、歩兵のものと思われる迫撃砲が振ってくるようになった。

 高緯度地方の夏の日は既にかたむき始めていた。

 時間だった。

 徹攻兵達は稜線の手前に戻ると、今一度戦場を振り返り、戦果と資材を抱え本部駐屯地までの道のりを進んだ。

 ただ一人颯太だけ、父親の遺体の収まった袋を大事そうに抱えて帰った。


 本部に戻った徹攻兵達に、統合連絡役の一人、信世から、意識通信のみで通達があった。

 一九九九年の七月のドイツでその事件は起こった。

 二〇〇五年にアデル・ヴォルフ機関からその情報が寄せられると、事件の危険性から信世の発案でその情報は秘匿扱いにされた。

 当時もこの情報を知るものは少なく、この場でいえば色川と信世、そして遊だけになること、

 正式な開示を待たずして皆に共有するのは、まだ指導者としての役目を残す色川ではなく自分がふさわしいと考えて話すこと、

 正式な開示手続きは取るので、開示されたら文書に当たって欲しいことを述べた。

 その上で起きた事象の概要としてはこうだった。

 徹攻兵は、着甲した状態で通信用のクリスタルを破壊すると自滅すること、

 一九九九年の事件では第二世代型のAWー02の徹攻兵が起こしたこと、

 自滅のさい、自分の重心から五十センチの球体状に時震球を作ること、

 時震球の中では、六十年ほど時間が経過した状態が生まれること、

 おそらく輝巳自身、第六世代型装甲服があれほど巨大な時震球を作るとは想定していなかったであろうことを告げた。

 信世が続ける。「実際の着甲に当たる皆さんに危険の可能性を秘匿していたこと、私からも謝ります。

 申し訳ありませんでした。

 ただ、皆さんが誰一人欠けることなく帰ってこれて、輝巳は笑っていると思います」

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