第107話 【挿話】ハイローミックスの過ち(後編)【外伝】
――附記1徹攻兵の損害――
徹攻兵は普段、その装甲を失う経験をしていない。
これに対し遠距離攻撃の直撃弾は、その防御力のかなめとする装甲の脆化を招く。
徹攻兵の使用武器は対人兵器としては過大に強力で、装甲を失った箇所に次弾を受けた場合、四肢の欠損や即死は免れず、徹攻兵の狼狽、恐怖たるや極度のものとなる。
また、近接武器による攻撃は、同じ近接武器で受け損なった場合、即座に肉体の欠損を意味する。
今次作戦において肉体に負傷を発生させたものは現れなかったが、実際、複数次のカウンセリングが必要になるなどメンタル面で非常に深い爪痕を残す結果になることに注意したい。
これも、装甲の脆化を受けた徹攻兵は小隊間の後方に回し、装甲の無事なものが前線に立つなどの小隊間の支援により、安定的な運用を期待するものである。
――附記2しんがり戦に必用な冷静な判断――
今次作戦の中盤における混乱を立て直すに当たり、我々は部隊の陣形を再構築すべく撤退戦の形を取った。
この時、非常に高次の徹攻兵二名で構成される分隊を戦場の中央に配置し、敵性徹攻兵の攻撃を集中させた。
古来より撤退戦においては、部隊の最後尾に当たるしんがりに強兵を置き、そのしんがり部隊が継戦する時間的有利の中で周囲の部隊が撤退を確実なものにすることで、兵数のいたずらな損耗を最小限にし、戦役全体の継続性を計るものである。
この点において、特務分隊二名の参戦のタイミング及び位置、そして戦場全体を指揮する大隊長の撤退命令は全て有機的に融合され、結果として全投入兵力の二パーセントの損失で、九十八パーセントの兵力を維持することができ成功と賞賛されるべきである。
かててくわえて、最終的に戦場に残った徹攻兵による自爆攻撃で、敵性徹攻兵の七十パーセント以上を無効化せしめたことは、作戦評価上極めて高く評価されるものである。
敢えて附記すれば、今次作戦の目標達成に不可欠であったといえる。
しかし先次大戦より繰り返されてきた自殺攻撃は、たとえ戦争といえども人の法に反する手段であり、今後絶対に繰り返されてはならない。
本邦においては、着甲時強化現象発動時の通信用のクリスタルの破壊は厳しく禁止される措置が執られることを強く主張する。
――明理のレポートの要旨はここまでに留まる。――
明理は、自分の作った報告書を何度か読み直し、細かい誤字を修正し文言を付け加える。
もう、日は落ちていて、キャンプ座間の林もシルエットが映るだけになる。
何度か、簡易な着甲試験の時に使われた林に雲の影が落ち、一瞬、九八式の誰かが飛び上がった錯覚を覚えた。
夕焼けも落ちた赤黒い暗闇が、それもすぐに隠した。
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