第027話 訓練再開
段取り通り日没後、隠れるようにヘリコプターの格納庫で着甲すると、矢臼別演習場に向かう。
信世から指示が入る。「まずは二人にラインメタルの射撃訓練をしてもらいましょうか」
本来、主力戦車の主砲であるラインメタルの発射時の衝撃はすさまじく、五十トン級の車体でようやく受け止められるほどである。
徹攻兵が如何に驚異的な身体能力を発揮するといえども無限ではない。
第一世代の九十八式の場合、二百キロ相当の衝撃が、第二世代の〇五式の場合でも百キロ程度の衝撃が、着甲している顕現者本人の身体にかかる。
実験では、〇五式二名で支えることで何とか運用できたものの、実用的ではないとして二名懸架用の様式は制式化が見送られている。
このため、明理と皐月にとってラインメタルを撃つのは初めてのことになる。
主力戦車による実用的な砲撃は二千メートルから三千メートルとされており、三キロ離れた地点では宇と輝巳が標的幕を張って待機している。
信世の指示で、まずは〇六式の明理から試射することになる。
身長の最も高い堅剛が身長の最も低い明理にラインメタルの担ぎ方を教えるのは、どこか親子の様子すら思わせる。
長大な砲身はなかなかかさばり、構えるのに一呼吸を擁する。
それでも明理は、自家用車一台分にあたる重量物をあまりにも軽々と取り回してみせる。
前後のとれる位置で右の脇の下に構え左手を添える。
砲の重心から上に伸びる一本の柱はちょうど肩にかける高さで後ろに折れ曲がっている。
堅剛が手本を見せる。「むー、懸架鈎は肩の端の方じゃなくて、もう少し首に近い位置に構えられる? そうそう」
信世から連絡が入る。「明理ちゃん、瞬間的に六十五キロ相当の衝撃が肩に入ることになるからそのつもりで」
明理が返事をする。「はい」
堅剛が優しさを見せる。「緊張してる?」
明理が答える。「していますね」
堅剛が、それでいいと思うよ、とかけた声に明理が「ありがとうございます」と答えると、信世から指示が入る。「穂村二尉、射撃訓練開始、撃てっ」
明理は右足を後ろに引くと腰を落とし、暗闇の向こう三キロ先の標的を意識する。
見えたっ。
右手の位置に来ている引き金を引く。
轟音と閃光。
初めての衝撃に明理は一歩後ずさる。
弾は同心円の右の端を撃ち抜き、少し離れた裏の丘に突き刺さる。
明理は悔しがる。「外しましたか」
宇から声がかかる。「初弾で、的には入ったんだからいいんじゃない」
信世が確認する。「明理ちゃん、肩の様子はどう?」
明理はラインメタルをそっと下ろすと、右肩を一周回してみせる。「ずいぶん重みを感じましたが、問題ありません」
信世は、一回考え込むと「それじゃ、姿勢に気をつけながら、残りの三発も撃ってみましょう。
出来るだけ、的の中心を意識して」
わかりました、と答えた明理は、ラインメタルを軽々持ち上げてみせる。
砲身はこんなに軽いんだけど、と先ほど感じた衝撃の重々しさを意識せずにはいられない。
そして、もう一つのことも。
あの子は、もっとうまくやる。
構える。「穂村、準備整いました」
二発目、三発目、四発目と、信世のかけ声と供に撃ち込む。
どうしても後ずさりする癖は抜けなかった。
弾は、徐々に中心に近づいたものの、赤丸には届かなかった。
信世の指示が皐月に移る。「じゃあ、今度は皐月ちゃんの番ね。一八式の皐月ちゃんでも、四十五キロ相当の衝撃がかかります。
気をつけて」
「了解しました」と返事する皐月に信世は、「一八式の出力をフルに発揮できるようになれば二十五キロ相当になるからずいぶん違うんだけどね」と声をかける。
皐月は、はい、と答える。
明理の構え方を見ていた皐月は、遊の目からみても嫌みなく構える。
「それでいい」
「ありがとうございます。
都築教官、相原三曹、整いました」
「相原三曹、射撃訓練開始、撃てっ」
皐月の放った初弾は、中心の赤丸をかすめて裏の丘に突き刺さる。
輝巳が標的幕をカメラに映し込む。「いいね、こんな感じだ」
三キロ先程度であれば、暗闇の向こうでも、〇六式の明理も一八式の皐月も意識できる。
皐月は、こんなものかと口を結び、明理は、負けてられないと口を結ぶ。
信世が確認する。「皐月ちゃん、肩の調子は?」
「問題ありません」
「じゃ、続けて行きましょう」
皐月は残りの三弾を、ばらつきはあったものの全て赤丸の中に収めて見せた。
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