第077話 帰投
輝巳が信世に報告する。「信世、感じられる敵性徹攻兵は全て排除した。
内一名は目立った外傷もなく確保」
信世から指示が飛ぶ。「道照、七生の両名は逃走を企てる輸送船の機関部を光条砲で消滅させ停止させてください。
機関の停止が最優先です。
これ以上の人的被害は必用有りません。
また、島内には大型の弾薬庫が見込まれています。
各員、必要以上に建造物には近寄らないようにしてください。
司之介が返事する。「時限爆弾とか罠が仕掛けられているかも知れませんよね」
信世が答える「そういうこと。
撤退する時に自軍の設備を最大限破壊するのは最低限のセオリーだからね」
ここから、血気に盛る二小には、いや、男の子っ気の抜けない輝巳と遊にも退屈な時間が始まる。
港湾部に集まった人々は総勢一万人余り。
いくつか停泊していた作業船、揚陸船は機関部とそこに近い吃水部を光条砲で消し飛ばしてしまっており、半ば浸水しかかっている。
とにかく逃げ出したくて、暗闇の中灯火をつけ、船をなんとかしようとする人々を道照と七生は遠巻きに見守る。
沈没船に群がる人々、重機を動かす人々、倉庫街に戻ってなにかを運び出す人々、時折、道照や七生を眺めやるが手出しをしてこようとはしない。
道照が呟く。「近づいてこないね」
七生も答える。「尖閣で、皆殺しの実績有りますからね、我々」
道照もそれを受ける。「あれは、輝巳さん、遊さん、凄いよ。
初めての実戦で、ただの市民で。
ああいう人達がいて、いまのこの距離感があるんだな」
その輝巳達は、戦場となった空港、倉庫街に散逸する敵性徹攻兵達を一箇所の空き地に集める作業をしていた。
頭などを失い、血液の漏れるご遺体を抱いたり背負ったりする気にはなれず、だれしも、脇に抱える形で運んでいた。
第三世代も数名いたが、ほとんどが第四世代型でおそらくは主力を配置してきたのだろうと思われた。
一人、生き残した徹攻兵は、空きになった倉庫から見つけてきたロープで両手両足を縛っておいた。
輝巳は、皆に伝わる声で颯太に聞いた。「颯太、お父さんが一人だけ生かしておいて、優しいと思うか?」
颯太も、全員に伝わる音声で答える。「いや、もっと生かしておくこともできたのかな」
輝巳は、少し苦笑いする。「そっちか。
いや、いかに効率良く安全を確保するか、という意味でも頭を集中して狙わせた。
彼も、殺してしまう方が間違いなかった。
ただ、遊君と二人がかりになれたことと、古い知り合いだったことで生かすことをも思いついただけなんだ。
これから彼は、米軍と自衛隊による、長い拘留と尋問、そして中国側に身柄が送還されれば拷問にちかい尋問が待っているんだろう」
ここで輝巳は一度話しを区切る。
颯太が呟く。「そうなんだ」
輝巳が続ける。「ほんと、戦争の酷さは半端じゃない。
それでも、見方に一人もけが人が出なかったのは良かったと思っている」
輝巳達の集めた徹攻兵のご遺体を並べた画像は、座間からアメリカ政府へ、アメリカ政府から中国側へと連携される。
事実上、勝敗は決定し、中国側は非公式にファイアリー・クロス礁の国際管理を受け入れる。
アメリカ政府は用意していた揚陸艦と商船ベースの引き揚げ船数隻からなる艦隊を差し向ける。
それに先だってフィリピンの空軍基地から離陸した空自のCー2が、四機のFー三五Aに護衛されてファイアリー・クロス礁に着陸すると、中から、アメリカ、イギリス、フランスの国旗を胸にペイントした徹攻兵を含む、総勢二五名の徹攻兵が降りてくる。
輝巳達が整列して待つと、空輸されてきた徹攻兵達も整列し、お互い握手を交わし合う。
大隊長の襟章をペイントされた〇五式の色川とは、輝巳も遊も抱き合って挨拶をした。
Cー2からは普通科の部隊も降りてきて、まもなくやってくる引き揚げ船に、残された中国側要員を乗船させるべく、武装解除や人員の割り当てを進める。
輝巳、遊、颯太、快王、司之介、寿利阿の特務予備自衛官は、引き上げるCー2に乗り込むと、ファイアリー・クロス礁を後にする。
フィリピンの空軍基地から厚木へ、厚木から座間へ、遊を除く六人は座間からみずほ台に戻る。
輝巳は、家のチャイムを鳴らすと「輝巳です。
三人無事帰って来ました」と告げた。
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