第065話 大人扱い
こうなると次ぎに課題になるのが、快王、司之介、寿利阿の適性試験だった。
自衛隊の任務は仮にもお仕事。
身内を巻き込むだけでも、慎重にことを運ぶ必用のある国際機密ということもあり、輝巳は丁寧に颯太と相談を重ねた。
結論としては一人ひとり、順々に声をかけていくよう段階を経ることにした。
三人とも、十九歳を超えて成人しているのが救いだった。
最初に、声をかけたのは快王だった。
颯太と一番仲が良く、家も近所で、輝巳も頻繁にすれ違うなど言葉を交わす機会が多かった。
呼び出した場所はみずほ台の駅にほど近い、わき水の絶えない栗谷津公園だった。
まだ、颯太も快王も二、三歳の頃、遊びに連れてきていたこともある公園だった。
颯太も快王も司之介も寿利阿もよちよちとした歩き方であの辺で遊んでいたな、と思い出す。
しかし、息子の呼び出しに応じて来てくれたのは、立派な青年然と成長した姿だった。
輝巳は言葉を選びながら話した。
何しろ十九歳という年齢は、近所の知り合い宅のお子さんという見方と成人という見方の緊張の見極めを強いられる年頃でもあった。
輝巳は、輝巳自身が副業として自衛隊の訓練に参加していること、
颯太も、父親の輝巳のすすめで自衛隊の訓練に参加するようになったこと、
大学時代のボランティア活動の一環として、就活に使える話題の一つとして参加してみることを勧めたいこと、
訓練に参加すればそれなりの手当は出ること、
まずは一度説明だけでも受けてもらいたいと思っていること、
とはいえ、自衛隊の活動には守秘義務もあり誓約書が必要になること、
誓約書には、もうご両親の同意は必要なく、
「おじさんは、快王自身の判断を聞かせて欲しいと思ってるんだ。
その紙、預けるから少し将来に向けてのことを考えてみてよ」と託した。
俺のやってること、メフィストフェレスとかわんねーなー、と思いもした。
それだけに一週間ほどで颯太から、快王が誓約書にサインをしたことを告げられた時にはほっとした。
快王を座間に招待しただけで、輝巳はあの赤ちゃんがこうして大人扱いする歳になったんだな、と我が子の成長を見守る感にも近いものを感じた。
訓練展示は颯太にやらせた。
快王自身、徹攻兵のことはネットで知っていて、半ば興奮気味に着甲すると、七十メートルを超える跳躍を見せた。
颯太も快王も喜んでいたが、輝巳は飛び上がった快王の高さを見て、若さの煌めきを見せつけられた気がした。
颯太の喜ぶ様が無防備で、改めて快王は颯太の特別な友達なんだな、と思った。
そして武多の読みが当たった以上、不出来な仕事以上に神経を使う交渉が、後二件残っていることも自覚した。
一徹攻兵として訓練という実務、作戦という実務に当たるだけでなく、次代の徹攻兵達を発掘する役回りが自分に巡ってきたことに驚きもした。
そして、どうしてこの役回りが、仕事で巡ってこなかったのだろうと思うと切なくなった。
司之介を誘う時も栗谷津公園に呼び出した。
身内だけで固めるよりも怪しくなかろうと、颯太だけでなく快王にも立ち会ってもらった。
誘い方は快王の時と同じ要領だった。
違ったのは、颯太だけでなく快王の口添えもあったこと。
司之介は快王よりあっさりと誓約書を受け取り、サインもしてくれた。
司之介は颯太や快王よりまじめさがやや強く、座間では、機密の扱いについて掘り下げて聞いてきた。
そういう慎重なところも、子供の頃から変わってないよな、と輝巳はほほえましく眺めていた。
司之介の跳躍は六十メートルを超えていた。
三人の十九歳が一八式に対応してきたことで、残る寿利阿にも期待がかかった。
寿利阿への声かけに当たっては詩央にも協力してもらうことにした。
これは颯太の発案でもあった。
正直、娘の反抗期くらい思春期になれば自然なものだろうと思い、輝巳から詩央に特に気を使うこともなかった。
颯太からは、お父さんが大人になるべきだ、と諭され、そんなものかと思い直しもした。
先に颯太から話しを通してもらった上で詩央の部屋に入った。
え、マジか、娘の部屋、いいにおいがする。
と、驚きもした。
詩央には、詩央も知っている快王と司之介が徹攻兵になったこと、
颯太と同い年の寿利阿ちゃんにも徹攻兵の可能性があること、
まずは寿利阿ちゃんを誘うところから手伝って欲しいことを伝えた。
詩央は不満そうに聞いていたが、「相原さんが一緒に来てくれるなら手伝う」と答えてきた。
寿利阿を呼び出したのも栗谷津公園だった。
颯太には、そのワンパターンさを笑われた。
それでも、輝巳にとって子供達の小さかった頃を思い出させてくれる忘れられない場所だった。
進学ではなく就職を選んだ寿利阿には副業としての選択肢の一つとして話しを勧めた。
寿利阿は、皐月が高卒で一般曹候補生として入隊した経歴に興味を示した。
女性自衛官教育隊が朝霞駐屯地にある地の利も前向きに受け止められた要素だった。
詩央と皐月に訓練展示を協力してもらい、着甲させた寿利阿は七十メートル近く飛び上がり、武多を喜ばせた。
武多は、相変わらずピアスだらけの顔をほころばせながら輝巳にいった。「しかし、こういう有意な塊、これからどうやって探せばいいんでしょうね?」
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