第016話 クリスタル
通信の検討、音声の検討、視覚の検討が進む中で平行して、どうして突然このような意識の共有ができるようになったのかの検討が繰り返された。
最初は理由が分からず通信機器を中心にあれこれ設定や規格の見直しが行われた。
そもそも、指揮車の通信基地局機能が停止したことに端を発したため、通信距離や範囲の検討と相まって、顕現者達は、何度もヘルメット部分の被り直しをさせられる退屈な時間が続いた。
きっかけはコンラートの遅刻によって訪れた。
夏の暑い日、シャワーを先に浴びたかった彼は急いで服を脱ぐ時に、何とはなしにペンダントも外し、その後ペンダントを更衣室に忘れたまま急いで着甲室に向かうと、専用の肌着やアンダーアーマーと呼ばれる鎖帷子の着用を始めた。
その日初めて、コンラートだけ意識の通信ができなくなり、これは何かあると研究員達が色めきだった。
どうやったらコンラートの意識通信を回復させられるのか、それができれば理由が判明すると本当にあれこれ試された。予定の時間を過ぎても検討は繰り返され、スヴェンもリーゼルも、当の本人であるコンラートもうんざりしてしまった。
研究員達にも疲れが見え、原因の究明はまた後日にしようということとなり解散が決まった。
スヴェンとコンラート用に設けられた男性用着甲室でガッカリしながら装甲服を剥がし、鎖帷子を脱ぎ、専用の肌着まで脱いだコンラートが「あっ、ないや」と呟いた。
研究員の一人がたずねる。「どうしたんです?」
「いや、いつも着けているペンダントが無くて、どうしたのかな、シャワーの更衣室にでもおいてきたかな」と呟いた。
スヴェンの脱衣も手伝っていた研究員達は聞き逃さなかった。
すぐに一人が更衣室に走り、脱衣籠に置かれていた紫水晶のペンダントを見つけると、通りがかりに女性用着甲室をノックする。
「もう一度、リーゼルに着甲させて下さい」
中から不満の声が多数上がったが、原因が見つかったかも知れないというと、渋々受け入れられた。
ようやく男性用着甲室にもどり、コンラートに確かめると、確かにこれだという。
スヴェンが語る。「一つの原石からペアのアクセサリーを作る店があってね。俺たちはペンダントを、リーゼルはピアスを着けているんだ」
こうして三人がもう一度着甲すると、意識通信は成功した。
研究員達の盛り上がりようといったらなかった。
また一つ、着甲時強化現象の謎を解き明かした気分だった。
次の日以降、今度はアクセサリーの形状や材質が検討された。
様々な検討の結果、単一の鉱石から分割した素材であれば、着用位置や形状は問わない事が分かった。
ただ、ある程度の大きさはあった方が良く、ヘルメットにピアスは引っかかりやすいこともあり、リーゼルもペンダントに切り替えた。
鉱石の構造も、できる限り単純な結晶構造を持つものの方が効果が高く。
産出量の問題もあり、結果的にスヴェンが最初に選んだ紫水晶やシトリンなどが良いとされた。
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