第102話 【挿話】世代と段位【外伝】
輝巳や遊と違って、武多は一つ上の世代に当たる。
社会人一年生や二年生と違って、まともに仕事を任される大人になると、一つ二つの年の違いなんて無いも同然になる。
むしろ仕事のふれあいの中で、おたがい「ちゃん」付けで呼び合ったり、お互い「ですます」が崩れなかったり、自然と振る舞いとしての距離感が生まれる。
武多としても都築小隊の各々とは、研究者と実践者という立場の違い、官僚と民間人という立場の違いをふまえつつ、和気あいあいとした中で過ごしてこれたと思う。
ただ還暦が近づくとまた、違ってくる。
そもそも、若年定年制を取っている自衛官は将補にまで上がらないと還暦を迎えるよりよっぽど早く定年を迎えてしまう。
自衛隊員として、余りに特殊な能力を持つ顕現者たる都築小隊の各員は、特務予備自衛官制度を使って、未だに一尉相当官で有りながら月次の出頭に応じているが、防衛施設庁の職員である武多自身は彼らより先に現役を去ることになる。
実際、古くからの徹攻兵の多くがすでに、定年退官していった。
武多自身、定年退官を前にして、とりまとめる書類が、即座に試験を企図するものではなく、少し将来を見据えたものになってきていた。
武多の研究報告である「世代と段位の相関性」についても、その傾向が見られた。
――曰く――
徹攻兵の世代には、各種機器、各種兵器の世代とは明らかに異なる要素がある。
各種機器はその対象物を交換すれば世代が上がる。
一般的に旧世代機器は新世代機器と比べて見劣りする。
旧世代兵器を使って新世代兵器と互するのは大変な困難や練度の相当な差などがあって初めて成り立つものである。
これと比べて、一部の特殊な例外はあるものの、徹攻兵の顕現者は一般的に、第一世代型に当たる九八式から慣熟していく。
熟練者と供に訓練をすることで世代を上げていくことなどから、作法などを身につける「道」に通ずるものがある。
そのように考えると、若年者は低世代型に留まり、高齢者が高世代型に進む状況や、高世代型の顕現者との訓練期間が短い者のが
低世代型に留まる姿は、まるで「段位」の様にもみえる。
俗に「人、一人斬ると初段の腕前」という。
実際に本邦での徹攻兵の取り組みについては、実戦を経るごとに習熟度に当たる出力やを上げた例や、世代そのものを上げた例が顕著に見られる。
もし、徹攻兵の練度がいわゆる「道」のように熟練を要するものだとすると、低世代型に留まる顕現者でも日常的な訓練は欠かせないものと考察される。
また、高世代型の顕現者による展示訓練についても、直接的な効果が感じられなくとも、誕生日という星辰に選ばれし者には、世代を上げる可能性があることを示す意味でも引きつづき、繰り返し実施される必要性がある。
自衛隊には精強さを保つため、として若年定年制が採用されており、そのほとんどが五十代半ばで退役する。
しかしこと徹攻兵においては、高世代型装甲服に対応した顕現者は高齢であることが予測され、若年定年制の適用を除外するなどの措置も検討が必要である。
この際、定年を迎えた顕現者に特務予備自衛官制度を適用することは慎重に判断されたい。
特務予備自衛官には出頭を拒否する権能が与えられており、実際の作戦立案の際、高世代の徹攻兵を作戦に組み込めるかどうかにつき、特務予備自衛官の存在がたびたび幕僚の頭を悩ませたことをここに記す。
――武多の報告書の要旨はここまでとなる――
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