第103話 【挿話】遊君のミドルネーム【外伝】

 サリーリ・カミックとキエラ・ニンディリャグ・マクマホンとの自己紹介を終えた輝巳と遊は、満と供に着甲室で新型の装甲服の着甲に取り組んでいた。

 輝巳が少し驚いていう。「軽いね」

 遊もうなずく。「だな」

 輝巳がじじむさいひとことを放つ。「昔は一人で着られなかったのになあ」

 遊が笑う。「いつの昔だよ。もう、世紀も年号も違うんだぞ」

 〇六式を着込む満は補助員と二人で着甲を進める。「お二方とも、体型まではっきりしてますもんね」

 輝巳が答える。「そうだね、ここまでタイトだと、男女の体格差とかもはっきりするだろうなあ。

 遊君、お互い中年太りじゃなくて良かったな」

 遊がなにかを思い出したかのように「中年太りかあ」と呟く。

 輝巳も思い出す。「そういや遊君、英語でのコミュニケーション苦労してないな」

 遊が答える。「向こうで散々苦労したからな」

 輝巳が話しを追いかける。「ところでさ、君、生粋の日本人だよね?」

 遊がうなずく。「だよ」

 「さっきさ、ミドルネーム名乗ってたじゃない?

 なにあれ」

 「あー、あれかあ」といいながら遊は後頭部に手を当てる。「インスブルックでのボスがさ、英語で話す時、俺のファーストネームと二人称代名詞とが紛らわしいってことでさ、亡くなった息子さんの名前をくれたんだよ。

 ニコラウスっていって、四歳の時幼児性肺炎で亡くなってしまったんだと。

 ニコラウスの愛称がコリンでさ、向こうじゃコリンって呼ばれてたんだ」

 輝巳が相づちを打つ。「ふーん。

 かわいがってもらってたんだ」

 「ああ、友達と山登りにいって、セイヨウウスユキソウを取ろうとして滑落して亡くなっちゃった。

 彼がまだ元気だったら、俺も今、徹攻兵やってなかったかもなあ」

 輝巳が「そっかー。魔の花だっていうもんなー」と話しを終えようとしたところで、満が少しにやけながらいう。「俺はまたてっきり、どっかの星の人かと」

 輝巳が笑う。「満さん、それいっちゃうかー。

 俺もいわないように我慢してたのに」

 遊も笑いながら答える。「うるせえ、いうんじゃねえ。

 さっさと着替えるぞ」

 遊自身、気まずさを隠しきれなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る