第104話 【挿話】さらなる高世代型への考察【異伝】

 最晩年の武多をずっと悩ませていたのは、第七世代型装甲服と第八世代型装甲服の諸元だった。

 最古参の研究員となる武多が「うーん」とうなるのをみて、中村という若手が声をかける。

 「どうされました?」

 再来月にも還暦を迎えようとしていた武多は、相変わらずピアスだらけの顔の目つきを細めて笑う。「いやあ、何度計算しなおしてみても同じ結果になっちゃうんで、どうしたもんかなと」

 中村は若手といっても四十代ではあるのだが、武多の話につきあうことにした。「何を計算されているんです?」

 「うん、三一式が制式化された今、次の世代、第七世代型装甲服を考えてもいい段階に入ったと思うんだよ。

 たださ、もともと薄かった二の腕部分とか、太もも部分の装甲が紙っぺらみたくなっちゃう。

 内装のウレタンの方がしっかりしてるぐらいでさ、いくら、謎は謎のままの徹攻兵でも、装甲服の無い徹攻兵なんて、それはもう徹攻兵じゃないよね」

 武多は穏やかに、困ったもんだといわんばかりの笑顔を絶やさない。

 中村は、武多のパソコンのモニターをのぞき込む。

 武多は、デザインの方向性として、太ももと二の腕部分について、内装の上に外装としての装甲板を残した形状を描いているが、スプレッドシートの上の計算結果は、どちらもマイナスの値を示している。

 中村も考え込む。「計算が間違っているわけではないですし、アンダーアーマーむき出しということもあり得るんじゃないでしょうか」

 武多もうなずく。「そうだね。

 その通りなんだよ。

 だからこまっちゃってさ。

 ただ」

 中村が問い返す。「ただ?」

 「三一式、第六世代型で初めて光条膜が出てきただろ。

 もしかしたら第七世代型の装甲がない部分は発光するんじゃないかと思ってさ」

 中村は自分の足下を見つめながら考え込んでしまう。「うーん、さすがにそれは、夢物語のようにも感じられちゃいますね」

 武多は、我が意を得たり、とばかりに返してくる。「だろ。

 だからこうして、ぺらっぺらの装甲を残した形状を考えたんだけど、三一式の尾形さんとか春日さんが九八式を今着ても三百二十メートル飛び上がるのと一緒でさ、あってもなくても意味のない装甲になっちゃうんだ。

 で、よもやと思って第八世代型を想定してみると、前腕部分とかすね部分の装甲も、それどころか胸や腹も無くなっちゃうんだよ」

 中村が苦笑いする。「いや、それもう、徹攻兵じゃないですよ」

 武多が、またもうなずく。「そうだよなあ、そう思いつつも計算結果に従った上で考えたのがこれでさ」

 そういって、武多が後ろに隠していたウィンドウを表に出してくる。

 武多が計算結果に従って描いた第八世代型装甲服は、もはや装甲服とはいえなかった。

 計算上は、アンダーアーマーも不要となり、最低限のスラスターを装備するためのベスト型の形状を残すのみだった。

 わずかに、足底のスラスターのために足を残しているのと、通信用にヘルメットだけは残しているが、それすら必須ではなかった。

 中村がある意味の驚きを持って画面を見つめる。「これ、普通科の歩兵の方が重装備ですね」

 武多は、穏やかに話す。「まあ、実験できないから空想でしかないんだけどね」

 

 後に、武多が残していった資料には、狼の耳を模したアンテナと、スラスターベストだけをつけた、アイドル風の衣装のデザインが残されていた。

 曰く「あくまで試算上のことではあるが、第八世代型装甲服が実現する場合、魔法少女の世界観が実現することになり得る」と。

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