第105話 【挿話】光条砲と強度、そしてライフリング【外伝】

 光条銃の開発には実は一癖あった。

 素材として単純に小銃の銃身の底を溶接し、クリスタルをはめ込んだ時には出力、飛距離とも延び、関係者を喜ばせた。

 銃口径及び銃身長から威力は直径一四・八ミリとわかり、飛距離も銃身長の八百倍程度との三百メートルとわかっていた。

 ただ、銃弾を入れ替えるような複雑な構成は要らないことから、砲身長を伸ばすことで飛距離も伸ばせるのではないかと期待され、あり合わせのパイプを元に口径五・五六ミリ、銃身長五十センチの試作品を作った。

 これをフランツに試射させたところ、極端に飛距離が短くなる現状が現れた。

 試射をみていたヴォルフガングも「ん?」と声を上げた。

 フランツ特有の黄色い鮮やかな光条が、まるで散布機にかけたかのように広がって射出されたのだ。

 飛距離は五十メートルほどで、効果範囲も直径二メートルまで広がったが、一ミリにも満たない無数の穴が空くだけで、暴徒鎮圧用のポリカーボネートの盾でもあれば防げそうな勢いだった。

 試しに五メートルほどの近距離でコンクリート壁に撃ち込むと、範囲は二十センチまでに収まったが威力はやはり一ミリにも満たない細かい穴が空くばかりだった。


 実際の小銃ベースでの試作銃と、飛距離を期待した試作銃の違いが検討された。

 そもそも、今回の試作銃は口径がたまたま似通っていただけの、工事用の部材だった。

 それを五十センチにカットし、底を溶接し、クリスタルをはめ、形ばかりの銃把を取り付けただけのものだった。

 三百メガパスカルを超える薬室圧力に耐える丈夫さも、弾道を安定させるためのライフリングも照星も照門も付いていない、ワンコインショップのオモチャのような試作品だった。


 まずは銃身の作りから検討された。

 ただの光りの束が出るだけのパイプに耐圧力強度を求めるなど科学的に意味のある取り組みとは思えなかったが、砲身の強度を上げることで、若干ながら被破壊物への破壊面積、破壊深度を上げることができた。

 相変わらず細かく分散してしまっているため面倒な作業が続いたが、まず、破壊威力については砲身の強度が関係すると整理された。

 次ぎに取り組んだのは銃身内の施条ライフリングだった。

 これも、本来は弾丸に回転力を与えることで弾道を安定させるための取り組みであり、光の束を出すだけの光条銃になんの意味があるのかとメーカーの担当者に笑われもしたが、銃身を丈夫にし、ライフリングを与えた試作銃は、光条が期待された一四・八ミリに集まり、飛距離も四百メートルに到達した。

 試験に成功したフランツは笑いながらヴォルフガングにいった。「高貴な狼は手抜きを許されないようだな」


 これを受けて、光条砲を開発する時にもまずは、退役した戦車から流用した主砲身を元に試作品を作成した。

 試験の結果は、ある意味、期待通りだった。

 現代の戦車はAPFSDS弾や成形炸薬弾が使用されている。

 これらの砲弾に小銃弾のような回転を与えると、効果を減損させることがわかっている。

 このため、戦車の主砲には施条ライフリングが与えられず、滑空砲となっている。

 この、滑空砲を元にした光条砲を試射したところ、光条は飛散し、飛距離も五百メートルほどと、そのまま砲撃戦に活用するには物足りない状態だった。

 正味の所、光条砲は既存の砲身に簡易な加工を施すだけで、脅威の破壊力をもたらしてくれると期待されていただけに、ライフリングの入った砲身を作るとなると新たな設計から必要になった。

 会計担当者は予算の取り方を間違えたと嘆いたが、なんとか作成にこぎ着けた。

 ただの光の束が飛んでいくだけだというのに、ライフリングを与えると光りが集中し、飛距離も伸びた。

 威力も分散せず、砲口のサイズから期待される三十二センチを示した。

 

 八発撃ちきったら終わってしまうという継戦性の低さから、携行しやすい半分ほどの砲身長のハルフテカノーネが企画されたが、実際の戦車砲弾に耐えうる肉厚の砲身にしないと期待される破壊力が示されず、結果的に数百キロの荷重となり、徹攻兵の携行武器としては問題ないが、輸送性に課題を持つこととなった。

 

 そんな、融通の利かない光条銃、光条砲だが利点もあった。

 再利用性の高さである。

 専用の工具が必要とはなるが、打ち終わってクリスタルが砕けた銃身、砲身の底を専用のスチール製のブラシでクリーニングし、接着剤で新しいクリスタルを貼り込めばそれだけで再利用できる。

 この点では非常に高い費用対効果をもたらしたが、いかんせん光条銃も光条砲も一般人が扱うには重すぎ、徹攻兵が扱うには十分軽いことから、光条銃、光条砲のメンテナンスは徹攻兵の仕事となった。


 長い砲身の底をブラシでこすり、砲身を逆さにして汚れを払い、接着剤をつけたクリスタルを棒の先につけて砲身の底に貼りつける。

 地道な作業をこつこつと繰り返しながらフランツはいった。「こんな運用を開発したと知られたら、各国に笑われてしまうよ。

 きっと日本人だけだろ、MOTTAINAIとかいって喜んでやるのは」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る