第039話 事変

 同時刻、国道三八二号線から陸上自衛隊対馬駐屯地に伸びる上り坂の中腹が何者かにより爆破され、道幅いっぱいが陥没する。

 それとタイミングを合わせたように、九州電力厳原発電所の変電施設が爆破され、次いで豊玉発電所、佐須奈発電所の変電施設も爆破され、対馬全島で民生用の電力が失われる。

 夜明け前の静寂を轟音で破られ、対馬駐屯地には対馬警備隊、通称やまねこ軍団の隊員が続々と集結する。

 が、情報が足りない。

 兎にも角にも駐屯地から車両を搬出する唯一の道路がふさがれてしまい身動きがとれない。

 爆発の威力を物語るかのように、道路脇の民家の壁も、大きく損壊している。

 電柱も倒れてしまい、架線が切れてしまっている。

 火災にならなかったのがせめてもの救いといえた。

 非常用電源設備を稼働させ、通信を回復させる。

 北部にある海上自衛隊の対馬防備隊との通信を試みる。

 「こちら、陸上自衛隊対馬駐屯地、対馬防備隊、応答願います」

 「こちら、海上自衛隊対馬防備隊、通信、どうぞ」

 つながった。

 取りあえず、お互いの状況を共有し合う。

 お互い、電源の供給を失い非常用電源で通信していること、陸自の駐屯地は出入り口となる道路を何者かに爆破され、即応が困難であることを共有する。

 そうしている間にも、対馬駐屯地では施設作業小隊が、倒れた電柱の撤去と、陥没した道路の修復を開始する。


 一方、小茂田港周辺では、朝鮮人民軍が一軒一軒家捜しを始める。

 住民の一人は、夜明け直前の薄暗い中、玄関を乱暴に叩かれ起こされる。

 取りあえず電気を付けようにもなぜか電気がつかない。

 玄関をライトで照らされているので、近所の誰かと思い玄関を開ける。

 すると迷彩服にヘルメットを被った男達から小銃を突きつけられる。

 「テイコウシナイデ、カゾクゼンイン、デテキナサイ」

 暗闇になれた目にライトの光がまぶしい。

 今一度小銃を突きつけられ、とんでもないことが起きていることだけは理解出来た。


 朝鮮人民軍は、小茂田港から県道二四号線を南に、六三A式水陸両用戦車と随伴歩兵、そして兵員輸送トラックを進める。

 一キロほど南の椎根の集落を家捜しすると、出てきた住民を後ろ手に縛り、一本のロープに数珠つなぎにする。

 家捜しする時に食料をあさることは忘れない。

 老人が多く、ほとんど抵抗は受けなかった。

 ほんの何件か、暴れだそうとした中年男性などは即座に射殺した。

 民家から車を奪い、県道二四号線の上に四台、五台と重ねて停車させ、道を封鎖する。

 同じ要領で脇の農道も封鎖する。

 そして集落を空にすると、人々を連れて小茂田港に向けて北上する。

 人々が抵抗なく従うのを確認すると、人々の列を前後二名ずつの四名で挟み込み、小茂田港北部の佐須中学校に向かわせる。

 戦車は県道二四号線の上に残し、南に砲塔を向けて、県道を北上してくる敵性車両への牽制に当てる。

 そのままでは格好の的なので、県道東側の黒岳に、兵員輸送トラック一両分の三十名の兵士を配置する。

 ここに、隠し球を一つ配置する。

 同じ要領で、小茂田港のメインといえる、佐須側河口の集落も家捜しをすませ、人々を佐須中学校に向かわせる。

 港を挟んで北にも延びる県道二四号線の路上に、民家から奪った車両を複数台放置し、その手前に戦車を配置する。

 同じく県道東側の大隈山に、兵員輸送トラック一両分の三十名の兵士を配置する。

 ここにも、隠し球を一つ配置する。

 こうして、背後の左右、北と南を固め退路を確保した格好を取ると、十両の戦車と四両の兵員輸送車は県道四四号線を東に、対馬市街に向けて行軍を始める。

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