第085話 疑似同士討ち試験
Cー2が矢臼別演習場の降下予定ポイントに近づく。
いつも通り輝巳と遊でコンテナを下ろす。
降下訓練は怖くなくなる方が怖いという。
高度もさほど高くないため輝巳と遊には落下傘は用意されていない。
それでも、機内で一度光条推進をふかし、体がきちんと浮上することを確認してから輝巳、遊の順に飛び降りる。
満と優子は単独で降下できるが、リリーとキエラはタンデム降下のため、輝巳と遊が地上で出迎える。
全員揃うと輝巳が武多にたずねる。「さてと、今日は何をさせるんです?
わざわざお客さんも来てるんだし、ただの飛んだり跳ねたりじゃないんでしょ」
武多が嬉しそうに笑う。「ほんと、お察しが良くて助かります。
尾形さん、今回は的になってもらえます?」
輝巳の声が裏返る「はい?」
「尾形さんで第六世代型の四十パーセント、春日さんで第六世代型の二十パーセントの出力です。
防御力は出力とは比例しませんが、安全をみて尾形さんにお願いしたいんです。
APFSDSを真正面から受けてもらえますか?」
輝巳が納得する。「あー、なるほど。
擬似的に同士討ちを作って、世代向上が図れるか試してみると」
武多が答える。「そうです。二六式でもAPFSDSでは脆化が起きませんでした。
とはいえ肩がぶつかったぐらいの痛みがありましたよね?」
「はい、こー、雑踏でわざとぶつけられたくらいの不快感というか」
「第六世代型ではどの程度の痛みが感じられるのかは記録したいんです」
「あー、なるほどー」
遊がたずねてくる。「ところで四人とも、ラインメタルの試射経験はあるんですか?」
それには信世が答えてくる。「ファイアリー・クロス基地での第三世代型慣熟訓練の締めくくりは、ラインメタルの単独試射で終わるのよ。
あそこの飛行場、三キロ有ってちょうどいいからね」
輝巳がこぼす。「痛いのやだなー。
ちゃっちゃとこなすか」
遊を含めた五人をコンテナの所に残して輝巳は二キロほど離れた位置に移動する。
「武多さん、信世、試射役は俺が指定していい」
武多が答える。「いいですよー」
「じゃー最初は遊君から。
左肩、狙ってもらえる?」
「了解」
夜間の矢臼別演習場とはいえわずか二キロほどの距離。
第六世代型の遊には外すはずもない距離。
轟音と供に飛び出したAPFSDS弾は輝巳の肩の装甲に当たると、弾体だけがわだかまるように変形し、そのまま下に落下した。
武多が聞いてくる。「どうです」
輝巳が答える。「うーん、なんていうか、ドツキ漫才。
ちょっと突っ込み強すぎへん、って感じですかね。
多分、集中砲火浴びても、ちょ、ちょま、ちょ、って感じですごせると思います」
武多が答える。「敵に回したくはないですね」
輝巳がたずねる。「光条砲の影響はどうなんでしょうね?」
「あ、それは最後に春日さんから尾形さんに撃ち込んでもらう予定です」
「まじか、とことんやな役だな、今日は。
じゃーつぎは優子さん」
優子が指名されて驚く。「僕からですか?」
輝巳が答える。「お客さんをもてなす前に練習したいしさ、女の子からの方が痛くないかなって」
優子が答える「輝巳さんだけですよ、女の子って呼んでくれるの」
「まー、こっちはひひじじいなんだけどね。
狙いははずれてもいいけど、右胸のスラスター部分を狙ってくれる」
優子がラインメタルを構える。「撃ちます」
轟音、着弾。
胸と腰のスラスターの裏には光条推進のためのクリスタルがはめ込んである。
しかし、弾体こそ歪むものの胸のスラスターにも歪みはない。
輝巳は、武多に言われる前に三次元機動を試し、機能の上でも異常がないことを確認する。
「優子さん」
「はい」
「女の子からでも痛いものは痛かったよ」
「ごめんなさい」
「いやいや、謝れってことじゃなくて報告ね。
武多さん、光条推進には異常を感じられず、です。
次ぎ、満さんお願いします」
「へーい」
輝巳が後ろを向く「あ、背中からスラスターボックスの噴射口を狙ってもらえますか。
そうだな、右側でお願いします」
「はいはい」
これも、異常なく終わる。
ここで武多が割ってはいる。「佐藤さん、高橋さん、跳躍高度の確認をお願いします」
二人とも、跳躍してみせるが〇六式の四十メートルを超えない。
武多が、二人の行動記録を表示するモニターを眺めながら呟く。「そう簡単にはいかないか」
満が答える。「なんか、すんません」
武多が恐縮する。「いえいえ、誰のせいとかではなく、一つ一つが検証ですから」
輝巳が、トランスレイター、と声を上げ、翻訳機能を呼び出す。「キエラさん準備はいいですか?」
キエラの声の後に、翻訳音声が届く。「私は準備できています」
輝巳が指定する。「私の右の肩を狙ってください」
キエラの翻訳音声が届く。「かしこまりました」
轟音、着弾。
そして弾体が落ちるのまでが一連の流れ。
輝巳がたずねる。「あなたの気分はいかがですか?」
キエラの翻訳音声が届く。「ありがとうございます」
びみょーに会話がかみ合っているような合っていないような空気が流れるが、輝巳は気にしないことにする。
そして遊にたずねる。「遊君、リリーにはどこを狙いたいか聞いてもらえる?」
遊がリリーにたずね、リリーは「一番耐えやすいところはどこでしょうか?」とたずねてくる。
遊が輝巳に「お前さんが一番我慢できるのはどこかね、ってさ」とたずね、輝巳は少し考え「腹にしようか」と答える。
一番的として広く、多少外しても頭を狙わなくて済むところ、と考えた。
リリーが構えるのが感じ取れる。
閃光を見てから腹筋に力を入れる。
着弾、そして弾体が落ちる。
「武多さん、お腹は気持ち気をつけた方がいいと思う、この痛みだと。
あとこれ、股間にヒットすると、あうう、ってなるとおもう」
武多が笑う。「そのまま英訳して報告させてもらいますよ」
そして武多が続ける。「リリー キエラ キャン ユー ジャンプ ハイ?」
モニターを見ていた武多が「あっ」と声を上げる。「リリー キャン ユー ジャンプ ワンモア?」
そしてリリーがジャンプしてみせると続いてキエラに「キエラ キャン ユー ジャンプ ワンモア?」と声をかける。
リリーもキエラも、自分のジャンプ高度はわかる。
武多が輝巳に声をかける。「尾形さん、今日は徹底的にやられちゃってもらえますか?」
「まじすか?」
「取りあえず、全員四発撃ち込ませてください」
結局、満も優子もリリーもキエラもラインメタルの弾倉が空になるまで、輝巳に撃ち込んだ。
結果、満も優子も高度を伸ばせなかったが、リリーが五十二メートル、キエラが四十八メートルの高度を記録した。
武多が喜ぶ。「ふー、これでアメリカにもイギリスにもお土産を持たせることができます。
コングラチレイションズ ユー ガイズ アー ダ フォース ジェネレーション」
キエラのマイクから涙声が聞こえる。
遊が、キエラを抱きしめる。「ユア ブラッド イズ グレイト」
優子がもらい泣きする。
満はフェイスマスクを上げると残念そうに空を見上げる。「遠いなー」
輝巳が満に声をかける「満さん、俺なんか、この年で平社員ですから」
満はフェイスマスクを下げると「俺もそうならないように気をつけます」と答えた。
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