第086話 新機能
輝巳が話しかける。「武多さん、信世、遊君、相談なんだけれどさ、すげえよけいなお節介なのはわかってるんだけど、リリーにさ、俺の顔にラインメタル撃ち込ませてみる」
信世がいぶかしげにたずねる。「なんの意味があるの」
「医者じゃないからわからないけど、ペイント弾じゃなくて実弾を顔に撃ち込める機会ってもう無いと思うんだ。
でも、俺たちが南沙でやったのはまさに実弾による頭への集中砲火なわけで、リリーも、もしかしたら避けて通れない日が来るかも知れない。
そのときに任務に忠実でいられるか、アメリカさんは知りたいんじゃないかな、って思ってさ」
信世は「医者の領分だと思う。
積極的にはなれないわね」と反対する。
武多は「たしかにアメリカさんは知りたいでしょうね」と中立の立場を取る。
遊は「正気か?」とたずねる。
輝巳は「いや、いいだしてなんだけど、怖い」と笑う。
遊は少し考え込み、「聞いてみる」と答える。
そして「やるってさ」と伝えてくる。
リリーのラインメタルの構え方が大ぶりになる。
脚を大きく広げ腰を落ち着かせる。
遊が号令をかける。「レディ ファイア」
着弾、そして弾体が落ちる。
遊がリリーに声をかける「フィニッシュ ジム」
リリーが「アイ マスト ビー ゴーイン」と答えてくる。
輝巳が、「ふー、目を開けてらんないよ」と笑う。
この時はリリーになんの変化もなかったが、後年、リリーはこの時の訓練を振り返り、気持ちの中のもやもやとしたものを片付けた気分になった、と語ることがあった。
一通り、実体弾を使った試みが終わったところで遊が語り出す。「ところでさ、さっきから俺の手の甲が紫に薄く光ってるんだけど」
武多が声を上げる。「ちょっ、危険性から確認して下さい」
遊が「あ、そっか」と答え、周りを探し、取りあえずしゃがんで、地面に両手の甲をつける。
地面にはなんの変化も現れない。「なにもないですね」
武多が考え込む。「うーん、その光り、大きくしたり明るくしたりできます?」
遊が意識すると、わずかに広がった感じがした。「気持ち、広がりましたかね」
皆が眺めていると、満が声を上げる。「光条ってのはなにかとクリスタルを軸にするんじゃないですかね」
武多が驚く。「おお、そうか。
あーでも、次回に持ち越しかなー」
信世が割り込む。「光条武器の柄にはめ込んであるのを使ってみるのは?」
武多が信世を指さして喜ぶ。「なるほど。
今日の夜は皆さんさえてる。
うーん、どうしよっかな。
まずはリリーとキエラの試射からやりたいな」
そこからはなにかとバタバタしていた。
まずは八尺砲の試射のため、一キロほど離れたところに標的膜を張り、リリーとキエラに試射させた。
ASー03を着甲したままだったが、二人とも面積こそ小さいものの光条で標的膜に穴を開けることができた。
これで単なる運動性能の出力の面だけでなく、第四世代特有の能力である光条銃、光条砲にも対応できるという側面から、二人の第四世代型への適応が確認できた。
また、灰色光条は確かに目立ちにくく、顕現者の適性として前向きに評価されることになった。
一方で、同士討ち試験については、満と優子に明確な効果が無く有効性には強い疑問符がつけられることになった。
一通りの評価が終わると、コンテナから光条武器を取り出し、発光させた方をナイフ代わりに、柄から削り出す要領で埋め込んであるクリスタルを取り外した。
そして手の甲にクリスタルを置くと、遊があれこれ試してみた。
取りあえず何が起こるかわからないので、皆、数メートル下がって見守った。
発光を強くしようとしても効果は無かった。
上に伸ばそうと念じても効果は無かった。
面をイメージして広げようとしたところ、直径二十五センチほどの鮮やかな紫色の円盤が広がった。
遊が呟く。「広がりましたね」
武多も呟く。「広がりましたね」
輝巳が、恐る恐る手の甲を、円盤の縁に近づけてみる。
すると、円盤の大きさが変わらないまま、遊の手の甲に乗せたクリスタルごと円盤がずれた。
輝巳の手の甲の装甲は脆化しなかった。
輝巳が呟く。「盾」
遊も呟く。「盾、かねえ?」
輝巳が続ける。「遊君、クリスタルを指で押さえてくれない」
遊が、左の甲に置いたクリスタルを右手の指で押さえる。
輝巳は光条武器を黒いもやで覆うと、遊の広げた紫に光る円盤の縁に当ててみせる。
すると、光条武器が先に進まない。
輝巳がたずねる。「遊君、力入れてる?」
「入れてない」
「俺、ちょっと押し込んでるんだけど」
遊が答える。「いや、ほんと軽く押さえてるだけ。
盾、だね、これ。
武多さん、有ったよ新能力」
武多が苦笑いする。「有りましたねえ。
それもアメリカとイギリス、オーストラリアの目の前で。
秘密にしておきたかったのに」
こうして、光条膜の研究が進められることとなった。
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