第007話 初撃

 こうして方針の大枠が決まると、いくつもの物事が並行して進められた。

 輝巳、遊、堅剛、宇の四人は、通常の軍事用の備品と異なり、一人ひとりの体型に合わせられた個人専用の装甲の確認に向かう。

 信世は作戦将校達と集まり、情報の確認と具体的な攻撃作戦の立案に入る。

 五人とは無関係のところで資材の輸送計画が練られ、陸自と海自の連携が図られ、海自の護衛艦が沖縄の軍港に向かう。

 全国の駐屯地に分散して配置されている徹攻兵達が続々と座間駐屯地をめざすだけでなく、アメリカ本土からも二小隊十名の徹攻兵がキャンプ座間をめざして厚木基地に向かってくる。

 徹攻兵の教育プログラムのことを考慮すると、大型の指揮所が必用となり、米軍の、キャンプ座間の「指揮所」を借りることにする。

 装備の確認を済ませた四人は、おのおの、家族との連絡を取り繕うと、個人の荷物を全て座間駐屯地の担当官に預ける。

 早めに移動してきた何人かの、顔見知りの徹攻兵からの敬礼を受けて軽く手を振ると、輝巳達は入れ替わるように厚木基地に向かう。

 厚木から那覇へ、那覇から沖縄軍港へと、彼らの身柄と彼らの装備が移動するのに呼応するように、徹攻兵の専用武装となるむき出しの戦車砲に四発の弾倉を付けた通称「ラインメタル」が海自の護衛艦に運び込まれる。

 ぎりぎり、一小隊分、四台の改造水上オートバイが到着すると、四人を乗せた護衛艦は夕焼けの東シナ海に出航する。

 既に二月二十七日土曜日の夕方になっていた。


 そして、初手を全て目標に当てた四人に信世が指示を出す。「遊と輝巳は作戦通り揚陸艦に向かって。

 ええと遊が艦首側から、輝巳は艦尾側から接舷次第乗艦して。

 宇と堅剛は島の南側、ええと裏側に大きく回って上陸をなるべく気づかれないようにできるかしら?」

 宇と堅剛が装備する〇六式は装甲が厚く大ぶりで、ただでさえ狭い艦内で取り回しに支障が出ると判断された。

 それに対して遊と輝巳が装備する一八式は比較的細身であるため乗艦役に回された。


 揚陸艦は、魚釣島の北の浜に艦尾を向け、北西に艦首を向けて停泊していた。

 深夜だというのに灯火を煌煌と灯すその様は、狙えるものなら狙って見ろと挑発する態度を見せていたが、艦尾側に回り込んだ輝巳のカメラを通じて、宇の空けた二つの風穴がキャンプ座間の大型モニターにまざまざと映し出される。

 「指揮所」の徹攻兵の多くから感嘆の息が漏れる。十五名が〇六式より大型である第二世代の〇五式を、残りの三十五名がさらに大型である第一世代の九八式を着込む。

 彼らではラインメタルを単独運用することができない。

 ましてや、着弾孔に次弾を打ち込むなどあり得ない。

 信世が声をかける

 「後ろのみんなにいっとくけど、〇六式を使いこなせれば、訓練次第でこれくらいできる子もいるんだからね」

 それを聞いた輝巳が呟く。「宇を基準にするのは、鬼が過ぎるだろ。

 ヌコ型ロボットの飼い主を基準にするつもりか」

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