第073話 発艦
台風のシーズンだったが、折良くそれた九月二十二日金曜日の現地時間十九時に五機のFー三五C型戦闘機が発艦した。
五機はステルス戦闘機に搭載するには不格好に横幅の広いペイロードを、左右のハードポイントにマウントしていた。
流線型のフェアリングに覆われた中には、自衛隊所属の徹攻兵がうつぶせに横たわるように懸架されていた。
徹攻兵達は、背面のスラスターボックスのさらに後ろに、左右に延びるバーが溶接され、左右にはそれぞれ八尺砲が二本ずつ、計四本を装備していた。
そして、背面中央には近接武器を装備していた。
輝巳はこのフェアリングを勝手に、二式
それを耳にした遊からは「縁起でもない」とたしなめられたが、輝巳は「特攻は繰り返してはならないことだけれども、それがあって今の日本があると思ってる」と言い切った。
輝巳は、改めて自らが搭載されてみると、何とも間抜けな姿だとも思ったが、着甲時強化現象は、発艦時にカタパルトによる加速で発生する足下方向への衝撃によく耐えた。
Fー三五Cは、五機が揃うまで空母上空を旋回していた。
揃うと、西に進路を取り、フィリピンのパラワン島上空を横切り、スールー海から南シナ海にまっすぐ抜ける。
目的の空域付近には、先行して滞空している海上自衛隊所属の哨戒機Pー1も待ち構えている。
高度一万メートル、巡航速度のマッハ〇・九で七百キロ西の海をめざす。
途中、中国人民解放軍海軍籍の哨戒艦より、航路の問い合わせが入る。
しかし、この方角は南シナ海対岸のベトナムに近づきこそすれども、中国本土に向かうわけでもない。
Fー三五Cのパイロットは、公海上を哨戒中、と回答する。
中国人民解放軍海軍艦からは、貴機の航路は中華人民共和国の領空の接続空域に向かっている、とし、直ちに航路を変更されたし、と通信が入る。
パイロットは口でこそ、了解、と返すものの進路は変えない。
艦隊旗艦から通信が入る。
飛行編隊の現在位置から七百キロ北方に位置する西沙諸島の飛行場より、緊急発進してきた機があるとの内容だったが、これだけ距離と時間を稼げれば申し分ない。
ファイアリー・クロス礁の東北三十キロの地点で南西に進路を変える。
洋上の中国人民解放軍海軍艦から、貴機の航路は中華人民共和国の領空に向かっている、領空侵犯は認められない、直ちに進路を変更せよ、と通信が入るので、改めて、了解、と返す。
中国が独自に領有権を主張しているファイアリー・クロス礁の滑走路は、東北から南西に向かっている。
中国が主張するところの領空に侵入してから四十四秒が経過し、滑走路から九キロの地点に到達したところで左右のペイロードを放つ。
機体はそのまま即座に進路を東に取る。
主任務を終えてしまえば、遅れてやってくる中国人民解放軍機の追跡など怖くない。
ペイロードも投下したため加速でき、後は安全に帰投するだけとなる。
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