強大な悪魔
翌日、紹介所で合流した柊吾、デュラ、メイ、ハナは、ミノグランデ討伐のクエストを受注し、孤島の洞窟へと向かった。
初めてここに来たというハナは、外から差し込む光や仄かに輝く鉱石類が放つ幻想的な雰囲気に心奪われていた。だが、さすがは凄腕ハンター。現れる敵は、容赦なく二刀の小太刀で斬り捨てていく。
今のハナは裾が短めで花柄の赤い着物に、幅広の頑強そうな肩当、上質な毛皮で編みこまれた黒の籠手、硬質の鱗が光るスカートのような腰当を身に着け、両腰に小太刀が一刀ずつ、そして背には二メートルの刀身を誇る太刀を帯刀していた。頭の上には相変わらず、般若の仮面を乗せている。
露払いは任せろとばかりに次々敵を切り伏せていくハナに、柊吾たちも負けじと並んだ。さすがのハナも魔装の隼には驚いたようで、目を丸くして柊吾のデタラメな機動に見入っていた。メイのビームアイロッドにも興味を示し(?)、「凄いね」とメイの頭を撫でていた。メイも幸せそうに目を細めていたので、柊吾もなんだか嬉しくなる。
そうやって互いが独自の戦いを披露しているうちに、いつの間にか大きな扉の前に辿り着く。その部屋の内側からは強力な魔物独特の、肌を刺すような鋭い魔力が漂っていた。
「おそらくここが標的のいる部屋だ。皆、準備はいいか?」
柊吾が扉の右側の取っ手を掴んで背後を見ると、三人とも緊張の面持ちで頷いた。ハナが左側の取っ手を掴み、真剣な表情で柊吾へ告げる。
「行こう!」
ーー部屋の中は真っ暗だった。しかし暗くて見えずとも、目の前に強大な魔物が佇んでいることが肌で感じ取れるし、耳を澄ませば野獣のような息遣いも聞こえてくる。
そして、明けた扉が一人でに閉まると、侵入者に反応し周囲の松明が一斉に燃え出した。
「っ!」
全長二十メートルはある巨大な悪魔が目の前に堂々と佇んでいた。顔はミノタウロスのような牛のものだが、角は横に曲がって斜め下を向き、鼻は低く悪魔のように口の端が吊り上がっている。背には巨大な漆黒の翼を持ち、紫の肌色に筋骨隆々の肉体。巨大な斧を両手で握りしめている。
「グオォォォォォォォォォォッ!!」
獲物を視界に捉えたミノグランデが雄たけびを上げる。
柊吾たちはその迫力に怯みながらも、各々散開し戦闘を開始。
まずは真正面から柊吾が飛び掛かり、グレートバスターを叩きつけようとする。
ギイィィィンッ!
大剣の斬撃は斧で防御され、鈍い金属音を上げた。
「くっ!」
柊吾は横から回り込もうとサイドへ腕部バーニアを噴射するが、ミノグランデは左腕を横に払い、柊吾を軽々と振り飛ばす。柊吾はかろうじてアイスシールドで防御したものの、空中で大きく後退。
その攻防の隙に、ハナがミノグランデの足元を走っていた。足を伝い、一気に体を駆け上がるつもりだ。
――ブオォンッ!
ハナの真上から巨大な拳が振り下ろされる。
しかしハナは大きく前へ跳び回避。姿勢を低くしたミノグランデの左腕に飛び乗り、肩まで駆け抜ける。
が――
「――なっ!?」
ミノグランデは勢いよく首を横へ振るい、強靭な角をハナへ叩きつけた。ハナは宙に投げ出され、無防備に。
「ハナぁっ!」
柊吾が叫ぶが既に遅く、ミノグランデは右腕を振り上げていた。巨大な斧をハナへと力一杯叩きつける。
――ドガァァァァァンッ!
ハナは部屋の入口付近まで吹き飛ばされ、派手な破砕音と砂埃を上げた。
「くっそぉぉぉ!」
柊吾が怒りに任せ、突貫する。ミノグランデは再び右腕を振り上げるが、左方向へ大きく回避。ミノグランデの右肩で旋回し、そのまま大剣を叩きつけようとする。
だが、ミノグランデが体をよじり漆黒の翼が柊吾の頭上から叩きつけられる。
「がっ……」
そのまま勢いよく地面に衝突し、急いで立ち上がろうとしたときにはミノグランデの大きな左手に鷲掴みにされていた。
ミノグランデは柊吾を握りつぶそうと、遠慮なく力を込める。
「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁ!」
隼が軋み、やがて装甲にヒビが入る。アリジゴクの顎にも耐えた装甲が今、呆気なく砕けようとしていた。
「お兄様ぁぁぁっ!」
後方でメイが叫び、充填の終わったレーザーをミノグランデの胸へと放つ。
しかし斧の刃で収束した光線を割られ防がれた。それは想像以上の強度で、レーザーである程度削れたものの、本体へ傷をつけることは出来なかった。
「そ、そんな……」
唖然としているメイの横から、斧がけたたましい風切り音と共に迫る。
デュラが間に入り盾で防ぐが、力が強すぎてメイもろとも叩き飛ばされ地面を激しく転がった。
そして、柊吾を握る力は弱まることなく、
「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ほの暗く静かな部屋に柊吾の絶叫が響く。
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