異形の者

 柊吾たちは、マンティコアの死骸から翼や尻尾などを剥ぎ取り、アイテム回収袋に詰めていった。


「ん? これはもしかして……」


 体内に見たことのない器官を見つけた柊吾は、それも袋に入れる。おそらく、マンティコアが炎を生み出していた特殊器官だろう。このとき、柊吾は既に新たな武器の設計図を思い描いていた。

 しばらく他に有用な部位がないかマンティコアの死骸を眺めていた柊吾だが、突然どこからか異様な気配を感じた。


(なんだ?)


 柊吾は手を止め黙々と作業しているデュラに後を任し、周囲を見渡した。


「――お兄様、あれを」


 先に見つけたのはメイだった。

 柊吾は、怯えたように低い声を発したメイの指さす方向を見た。

 柊吾たちが元来た道、そこにいたのは不気味な人影だった。


「あれは一体……」


 それは、装飾品一つない漆黒のローブで、全身を覆い隠した者。サイズが大きすぎて裾が地面に広がっており、顔も手足もまったく見えない。その不気味な人影は足を引きずるように歩きながら、柊吾たちの元へのっそりと迫っていた。体の周囲には空間が歪んで見えるほどの禍々しい空気を纏い、まるで彷徨うゾンビのようだ。

 メイが怯えたように声を震わせる。


「気味が悪いです」


「あぁ……おいあんた! 何者だ?」


 柊吾が大声で呼びかけるが相手は特に反応を示さず、ひたすら歩く。

 そんな柊吾の前にデュラが立ち、ランスの切っ先を相手へ向け突進しようとするが、柊吾は慌ててデュラの肩を掴んだ。


「待てデュラ。迂闊に近づくと危ない」


 そう言って柊吾はブリッツバスターを背から抜き、帯電を始めた。


「それ以上近づくな! 言うことを聞かないと攻撃するぞ!」


 柊吾はそう呼びかけるが、相手は歩みを止めない。


(ちっ、頼むっ、当たらないでくれよ!)


 柊吾は大した怪我にならないような熱量に調整し電撃を放った。数十メートル離れたこの距離では、精密なコントロールが難しいのだ。

 しかし、残念なことに電撃は相手への直撃コースを辿る。


「――んなっ!?」


 驚くべきことが起こった。電撃が相手に直撃する寸前、目に見えぬ壁に阻まれ霧散したのだ。

 相手は何事もなかったかのように、足を引きずり歩き続ける。

 柊吾は冷や汗を掻きながらメイへ指示を出した。


「メイ、レーザーの充填を」


「え? し、しかし……」


 メイは戸惑いの声を上げた。トライデントアイのレーザーでは、火力が違い過ぎて危険なためだろう。

 だが、それは杞憂に終わると柊吾は直感していた。


「奴の雰囲気、どこかダンタリオンに近いものを感じるんだ。もしかすると、ここを呪っている張本人かもしれない」


「そんなまさか……」


 メイは恐怖に頬を引きつらせ敵を見る。そして止む無くトライデントアイに一発分のレーザーを充填し始めた。


「止まるなら今のうちだぞ! 次の一撃は冗談じゃすまないからな!」


 柊吾は根気強く呼びかけるが状況は変わらない。


「……メイ」


「ごめんなさい――」


 ――ビュィィィィィンッ!


 高出力のレーザーがトライデントアイの先から放たれる。

 しかしそれでも、敵の目の前の空間が突然歪み、透明な盾のようにレーザーの熱を受け止めた。


「ダメかっ?」


 柊吾が悔しげに奥歯を強く噛む。

 それから何度呼びかけても反応はなく、柊吾たちが次の手を考えているうちに敵は十数メートル前方まで迫っていた。


「くっ……一体なにをするつもりだ……」


 柊吾が大剣を構え敵へ向けると、敵は足を止めた。


「……止まって、くれました……」


「あ、ああ――」


 ――ピキッ!


 柊吾たちが安堵したのも束の間、敵の周囲で空間に突然亀裂が入った。それは別の個所でも次々に発生する。

 柊吾にはなにが起こっているのか分からなかった。ただ唖然とその光景を眺めていると、亀裂が横に裂け内側から青白い人の手が無数に出てきた。


「ひっ!」


 メイが口を押える。

 柊吾は驚愕に目を見開き、デュラも心なしか体を震わせているように見えた。

 ただただ不気味だった。

 そしてそれらは、勢いよく伸び一斉に柊吾たちへ襲いかかってきた。


「っ!」


「いやぁぁぁぁぁっ!」

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