トライデントアイ

 マンティコアが柊吾たちの真上に陣取り、火炎玉を連続で投下してくる。

 柊吾はバーニアで加速し、近くにいたメイのところまで行くと頭上にアイスシールドを展開し防いだ。計六つの火の玉が地上へ降り注ぎ、爆音を響かせながら視界が火の海と化す。


「大丈夫か、メイ?」


 柊吾が背にかばっていたメイに問いかけると、大丈夫だという返事が返って来た。

 火の勢いが収まり周囲を見渡すと、デュラも盾を頭上へ構えきっちり防いでいた。頭上を見上げると、マンティコアは高度を落とし柊吾を睨みつけている。

 マンティコアは一度大きく旋回し再び柊吾へ体を向けると、柊吾の前方斜め上空からミサイルの如き勢いで空を切り突進してきた。


「メイ、頼む!」


 柊吾はそう言うとアイスシールドを解除し、メイが前へ出る。

 メイは両手で握っていた三又の杖をマンティコアへ向けた。ビームアイロッドを強化した『トライデントアイ』だ。それこそ、柊吾の設計通りにシモンが苦労して完成させた、鵺の左腕からの派生形。それぞれの三又の先にはビームアイロッド同様に光を収束できるが、それぞれにイービルアイの目玉三つ分が集約されており、三発同時に放てばビームアイロッドの九倍の威力を発揮する。また、三又それぞれに個別の収束ボタンがあり、以前のように押した状態で収束を続けるのではなく、一度押せば引っ掛かりによって目玉への刺激は継続され自動で最大まで充填が可能。それによりボタンを押し続けることなく、三つの発射口それぞれに光を充填したまま維持できる。

 ただ、なにかの拍子にボタンの引っ掛かりが外れては危ないので、むやみやたらに充填はしないというのが、柊吾とメイの約束だ。

 メイはマンティコアが旋回を始めた段階で左右の二ヵ所に充填を始めていた。そして、マンティコアが真正面に迫りると、ボタンを押し刺激部の引っ掛かりを解除することで、一発目のレーザーを放つ。

 メイはマンティコアの胴体を狙って撃ったが、手が震え射線が逸れてしまう。しかしそれでも左の翼を掠めた。


「グガァァァァァッ!」


 マンティコアは叫ぶと、空中でバランスを崩し体当たりをするかのような姿勢で柊吾とメイの元へ飛来する。


「っ!」


 柊吾はメイを抱きかかえ間一髪でその場を離れた。


 ――ズザァァァァァンッ!


 柊吾たちが先ほどまでいたところを通過しマンティコアは地面に激突。ガリガリと地面を削りながら滑り、何回転か転がるとようやく止まった。

 しかし大したダメージはないようで、マンティコアは頭をブンブン振りながら立ち上がると、メイを視界に捉え威嚇するように吠えた。

 柊吾はすかさずバーニアを噴射し、マンティコアの真正面から斬りかかる。さらに呼吸を合わせ、左横からデュラも突貫をしかけた。


 ――カチチッ!


 マンティコアが歯を噛み鳴らした次の瞬間、その周囲で突然爆発が起こる。


「――ぐぅっ!」


 柊吾とデュラは慌てて盾で防ぐが、二人とも爆風で吹き飛ばされる。


「このっ!」


 メイが溜めていたもう一発のレーザーを放つが、マンティコアは翼を広げ飛び上がった。


(さっきのは翼を掠めただけだったのか)


 柊吾は内心で舌打ちする。さきほどのメイの攻撃でマンティコアは飛べなくなったものと勘違いしていたのだ。

 マンティコアは柊吾たちを見向きもせず、大きく羽ばたき高度を上げていく。このまま逃げ切るつもりのようだ。

 しかし彼は気付いていなかった。真下まで迫っている機影があったことに。


「――逃がすかっ、オールレンジファング」


 次の瞬間、マンティコアの下に隠れていた左手がその後ろ足をガッチリ掴んだ。柊吾は左腕の巻き取り機構を起動し、同時に腰からバーニアを噴射する。飛び去ろうとするマンティコアへ糸で導かれ、急速に接近する。右に持ったブリッツバスターには激しく迸る稲妻が収束――


「――スラストブリッツ!」


 マンティコアに肉薄した柊吾は、至近距離で稲妻の斬撃を放つ。


 ――ズバアァァァァァンッ!


 強い光の発散と共にマンティコアは悲鳴を上げ、真っ逆さまに墜落した。左の翼は切断され、胴体からは血をまき散らしながら。

 マンティコアが受け身もとれず、地面に激突し砂塵を巻き上げる。

 そして、視界が晴れると目の前にはデュラが佇んでいた。デュラは瀕死のマンティコアの胸にランスを深々と突き刺し、戦いに終止符を打った。

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