上陸

「メイっ、大丈夫かメイ!」


「…………ぅ……ん……?」


 柊吾がメイの体を揺さぶり、彼女はようやく目を覚ました。柊吾に背を支えられ、ゆっくりと上体を起こす。


「お兄、様? どうされたんですか? それにここは……」


 寝惚け眼で眠たげな声を上げたメイは、柊吾を見上げそして周囲を見回す。その動きに不自然なところはなく、先ほどまでのように自我を失っている様子はない。

 柊吾は表情を緩め、安堵のため息を吐く。


「良かった……ここは船の上だよ」


 柊吾はカムラで起こったことをメイへ説明した。

 この幽霊船のこと、骸骨や霊体が襲撃してきたこと、そして自分たちがどこにいてどこへ向かっているのか分からないことを。

 メイは心底驚き、開いた口を両手で覆った。

 すぐに目線を下げ、顔を歪ませる。


「そんなことがあったなんて……私自身、家のお布団で寝てからの記憶がありません。でも、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「無事ならいいんだ。デュラとニアもおそらく無事だよ。それより、この船や骸骨なんかについて、なにか思い出せないかい?」


 柊吾は薄々感じていた。今回襲撃してきた敵は、いわば『死者の集団』。メイの出自となにかしら関係があるのではないかと。

 しかしメイは申し訳なさそうに首を振る。


「いいえ、頭に引っ掛かるものはありません。でも、敵の目的が私だったのであれば、少なからず関係はあると思います」


「分かった。とりあえずは……」


 柊吾は立ち上がると、デッキを見回した。

 船としては十分な広さを誇るが、床板はところどころ抜け落ち、帆はボロボロで風を受ける性能など期待できない。長いこと整備されていないことがよく分かる。

 メイも立ち上がり、二人で船内へ立ち入ろうと扉の前まで移動した。


「……開かない。鍵がかかってるみたいだ」


 柊吾は、木製の扉のノブをガタガタと押し引きするが一向に開かない。

 最初は建てつけの悪さが原因かと思われたが、二人がかりで押しても開かないところを見るに、内側から鍵がかかっているようだ。


「中に首謀者がいるんでしょうか……」


「どうだろう……いっそのこと、強引に叩き割るか」


 柊吾はメイを下がらせると、背のブリッツバスターを抜いた。


「お、お兄様、あまり手荒な真似はやめておいた方が……」


「大丈夫さ」


 柊吾は、メイを落ち着かせるよう頬を緩めると、大剣を振りかざした。

 そして、意を決して振り下ろす、その刹那――


 ブーーーーーーーーーー!! ブーーーーーーーーーー!!


 どこからか、けたたましい汽笛の音が鳴り響いた。

 柊吾とメイは急な音にビクッと肩を震わせるが、周囲を見回してもどこから鳴ったのか分からない。


「お、お兄様! あれを!」


 最初に気付いたのはメイだった。

 柊吾が彼女の指さした先へ目を向けると、薄紫の凶霧の中に沖のような輪郭がうっすらと見えてきた。


「あれは一体……」


 柊吾は持ち上げた大剣を降ろし、口をあんぐりと開けた。しかしまともな言葉は出てこない。

 メイも眉を寄せ、不安で瞳を揺らす。


 二人が混乱したまま徐々に近づいて来る陸地を眺めていると、やがて浜辺へ到達し船は止まった。


「行くしかないのか……」


 柊吾は緊張に顔を強張らせながら呟く。

 ここが幽霊船の目的地のようだ。


「行こう」


「はいっ、お兄様」


 その目的は定かではないが、今回の件の真相を突き止めるべく、柊吾とメイは謎の大陸へ上陸した。

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