誘拐

「――メイぃぃぃっ!」


 骸骨たちは既にメイを取り囲んでいた。その細い骨だけの手でメイの腕や足を掴む。それでもメイは、反応を示さず俯いているだけだ。

 そして五体の骸骨は、慎重にメイの体を横に倒しながら支え、浮上した。

 向かう先は幽霊船。


「くそっ! 誘拐でもするつもりかぁ!」


 バシュゥゥゥゥゥッ!


 柊吾は迫りくる骸骨たちを体すれすれで避け、叩き斬り、強引に前へ進む。

 ガス欠気味になりつつも、柊吾はメイへ確実に近づいていく。

 しかし次の瞬間、強烈な脱力感が柊吾の全身を襲った。


「っ!!」


 バーニアの噴射が急に止まる。魔力が尽きたのだ。それも突然。

 目を見開いた柊吾の周りには、複数の霊体が高速で飛び交っていた。それらは、不規則な軌道を描き、順々に柊吾の体へ突進し突き抜けていく。

 物理的なダメージはないものの、


「くそっ、こいつら……」


 霊体が体を通り抜けていくたびに、柊吾の全身から力が抜けていく。精神力を奪われているのだ。それにより、魔力も吸い取られている。


(まずい……)


 浮遊する術を失った柊吾は、重力に従い海へと真っ逆さまに落ちていく。

 メイは既に、幽霊船のデッキへと運び込まれていた。


「柊くん! メイ~!」


 ニアの悲痛な叫びが響く。彼女も骸骨たちに囲まれ、らちが明かないのだ。さらに霊体たちも襲い掛かり、ニアの活力をも奪っている。

 そして、骸骨たちがトドメとばかりに、一斉に柊吾へ飛来する。

 しかし柊吾は冷静に、エーテル瓶を腰のポーチからとると、ふたを口で外して叫んだ。


「デュラ!!」


 浜辺で孤軍奮闘していたデュラが素早く反応する。骸骨たちを盾で押し退けると、バーニングシューターの穂先を幽霊船へ向け――


 ――ドゴォォォンッ!


 けたたましい爆発音と共に、ランスの穂先が射出された。

 それは弾丸の如き速度で、柊吾の上空を通過し幽霊船のデッキへ。

 柊吾は回復した魔力で肘バーニアを点火させ、オールレンジファングを射出。上空を飛んでいったランスから伸びている糸を掴む。

 再び霊体が柊吾へ襲いかかり、魔力が急激に減少するが、ランスが船のデッキに刺さったことを確認すると、オールレンジファングの巻取り機構を起動し、体を船へ急速に引き寄せた。


「届けぇぇぇぃっ!」


 霊体を振り切り、行く手を塞ぐ骸骨に体当たりしながら、船へ一直線に突進する。

 デッキ側で、骸骨がランスの糸を切断するが、それでも柊吾の勢いは止まらない。

 そして、ギリギリ船の側板まで辿りつくと、ブリッツバスターを突き刺し、それを支点にデッキまでよじ上った。


「く……」


 デッキに立った柊吾は、次の戦闘に備え身構えるが、敵は攻撃してこない。それどころか、さっきまでいた骸骨たちも、霊体たちも、忽然こつぜんと姿を消してしまったのだ。


「一体なんなんだ……」


 柊吾は不気味さに体を震わせ、沖の方へ目を向けると、薄紫の霧が濃くなりなにも見えなくなっていた。

 揺れの具合から考えるに、カムラの港からは既に出航していると考えられる。


「くそ……」


 柊吾は苛立ちに眉を寄せるが、すぐに頭を切り替えデッキの周囲を見回した。


「メイ!」


 メイはデッキの中央に仰向けで倒れていた。

 柊吾は安堵と不安の入り混じった表情でメイへ駆け寄る。

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