敵の狙い

 まさしく乱戦。

 魂と炎が宙を高速で飛び交い、地上では浮遊する骸骨と騎士たちが激しく火花を散らしていた。

 デュラも騎士たちと共に、骸骨を真正面から突き崩す。

 しかし、倒しても倒しても、バラバラになった骨は再び集まって浮上。さらに、船からの新手も後を絶たない。


「ちぃ……」


 柊吾の表情に焦りが見え始めた。このままではジリ貧。バーニアを噴射する魔力とて無尽蔵ではないのだ。

 それならばと、柊吾は険しい顔を幽霊船へ向けた。


「やるしかないのか」


 呟きながら、接近してきた骸骨を叩き斬る。

 今、幽霊船まで辿りつけるのは、飛行能力のある柊吾とニアだけ。骸骨と霊体が、未だに幽霊船から向かってくるのを見るに、敵戦力は未知数だ。

 ニアを連れて行くにはあまりにも危険だと、柊吾には気の迷いがあった。

 しかし、柊吾がそんな迷いを抱いているうちに、状況は一変する――


「――隊長! あれを!」


 クロロの近くで一人の若手隊員が叫んだ。

 柊吾は滞空したまま、隊員が指さした先を目で追う。

 その先にいたのは――


「メイ!」


 行方不明だったメイが、浜辺の隅で佇んでいた。

 瞳は虚ろで、まるで誰かに操られているかのように、感情が感じられない。

 そちらには、まだ戦いの波がおよんでいなかったが敵も気付いたのか、すぐさまアンデットたちが向かって行く。


「っ! メイぃぃぃっ!」


 柊吾は叫び、肘バーニアで旋回すると、メイの元へと急速に飛翔した。

 今のメイは丸腰だ。薄手な魔術師の法衣を着て武器はなく、いくら身体能力が高くとも、武器を持った敵を相手にするのは危険すぎる。

 デュラも騎士たちの間を走り抜け、メイの元へと駆け出した。


「くっ、邪魔だ!」


 周囲に散らばり展開していた骸骨たちが、突然柊吾へ殺到した。

 次々突貫を仕掛けてくる敵を避け、返り討ちにする。

 今度は、霊体が猛スピードで柊吾へ突進してきた。その速さは骸骨の比ではない。

 柊吾は霊体を目前に捉え、アイスシールドを展開するが、


「なに?」


 霊体は直前で真横へ方向転換し凍結を回避した。


(なんだ、囮?)


 勘の良い柊吾はすぐさま首を捻り、背後へ目を向けた。すると、もう一体の霊体が弾丸の如き速度で迫っていた。


「そういうことか!」


 柊吾は身を捻り間一髪で回避。

 しかし隙は大きい。

 態勢を崩した柊吾の目の前には、錆びついた剣を振り上げた骸骨がいた。


「しまっ――」


 目を見開く柊吾は、それが振り下ろされるまでの間、体が動かない。

 死を覚悟するが――


「――柊くん!」


 骸骨の体は後ろから払われた爪によって、バラバラになった。

 ニアの援護が間に合ったのだ。


「助かったよニア」


「柊くんは、早くメイのところ行って~」


 ニアが顔の前に掲げた爪を光らせると、柊吾は頷きメイの元へと飛び出した。

 彼女の元へ駆けるデュラにも、骸骨たちが群がり通さんとしている。

 ゆえに、討伐隊が戦っていた敵は、急に彼らの前からいなくなり、騎士たちは唖然としていた。敵の目的は、メイにあると見るのが妥当だろう。


(一体なんだっていうんだ……)


 柊吾は不気味な感覚を振り払い、一目散にメイへと向かう。

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