灰色の森

 ――バシュゥゥゥン


 柊吾はバーニアの噴射を切り浜辺に着地すると、抱きかかえていたメイを降ろす。

 これでエーテルは残り二本。

 降り立った浜辺は視界が悪く、大陸に続く方角には灰色の森が広がっていた。


「さて、どこに向かえばいいのやら……」


「……あちらだと思います」


「え?」


 柊吾が困惑の声を上げ振り向くと、メイが森の中央を指さしていた。

 柊吾は一瞬、彼女がまた自我を失ったのかと思ったが、彼女の顔を覗き込んでも普段通りの目をしている。


「それはどうして?」


「いえ、詳しくは分からないのですが……誰かに呼ばれてるような気がして……」


「なんだって?」


 柊吾は眉を寄せた。やはり、敵の目的はメイにあるのだ。おそらくメイの直感も間違いではない。

 柊吾はひとまず、メイの導く場所へ向かうことにした。

 

 二人は真っ暗な浜辺を真っすぐ進み、灰色の木々が立ち並ぶ森へと足を踏み入れる。

 反対側の大陸も同様に霧が濃く、冷気が吹き荒び視界も悪い。

 どこに敵が潜んでいるか分からないため、柊吾がメイの前を歩いた。


「お兄様……」


 メイが不安そうに呟き、柊吾の袖をきゅっと握る。

 柊吾は彼女を心配させないように、優しく「大丈夫だ」と言った。

 しかし余談を許さない状況だ。仲間たちとは遠く離れ助けは期待できず、装備も整っていない。アイテムは常備していたポーションとエーテルが残りわずか。柊吾はブリッツバスターがあるから戦えるが、メイに関しては着の身着のままで来たから丸腰だ。


 しばらく進むと、視界が少し晴れてきた。

 小さな村でもあったのか、屋根のない小さな建物や傾いたボロボロの塔、窓ガラスの全て割れた教会などが散見される。

 足元には、様々な動物の骨やガラスの破片が散乱しており、二人が歩くたびに音を立てていた。

 まるで、ゲームの定番にある墓場のフィールドだ。


「あれは……」


 メイが呟き足を止める。柊吾も足を止め、よく目を凝らした。

 ボロボロな橋の下にゆらゆらとうごめく人型の影。さらにその後方には、かすかに城のような巨大な輪郭が見える。

 柊吾は顔を強張らせながら、背の大剣を抜いた。


「メイ、決して俺から離れるなよ?」


「……は、はいっ」


 メイは心細そうに瞳を揺らし、空いている柊吾の左手を握った。


「………………ん? ちょっ、ちょっと待った! それじゃ動けないじゃないか」


「はっ!? ご、ごめんなさい!」


 柊吾が困惑の声を上げると、メイは自分の手元を見て慌てて手を引っ込めた。

 彼女は思わず手を伸ばしてしまったのか、目をぎゅっと瞑り頬を紅潮させていた。


「そんなに心配しなくても大丈夫だって。メイは俺が守るから」


「っ……」


 柊吾の言葉を聞いた途端、メイが顔を伏せた。

 伏し目がちにちらちらと柊吾の顔を見た後、「あのっ、そのぉ……」と言いながら落ち着きなく両の人差し指をつんつんさせる。

 そして蚊のなくような声で呟いた。


「……よ、よろしくお願いしますぅ……」


 柊吾は黙って頷くと、大剣の切っ先を前方の人影へ向け、慎重に歩き出した。 


「……」 


 柊吾はまっすぐ前方だけに集中しようとするが、どうしても気が散る。

 周囲の大きな岩が人面にくり抜かれていたり、地面から青白い手が突き出ていたりするのだ。

 メイもあまりの不気味さに、「ひっ」と小さな悲鳴を上げていた。

 そうこうしているうちに人影の目前まで辿り着き、その全貌が明らかになる。


「こっ、こいつらはっ!?」

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