光をとり戻すために

 それから数日が経ち、とうとうヴィンゴールの決断が下された。

 カムラの恩人であるキュベレェ王の要請に応じ、九頭悪龍討伐にカムラのハンターを同行させることを決定したのだ。

 その人選は討伐総隊長ゲンリュウに委ねられたが、柊吾の強い要望により柊吾、デュラ、メイ、ニアの四名が同行することに決定した――

 

「――加護を」


 転移先の薄暗い洞窟の中、キュベレェが柊吾とニアへ手をかざすと、二人は優しい光に包まれた。

 目立った変化はないが、これで紫雨に当たっても毒に侵されない。

 今、最後の準備は整った。

 デュラの鎧は柊吾の持っていた素材をかき集めて打ち直し、シモンへ依頼していた新装備の開発はなんとか間に合った。それによってメイの持つトライデントアイは左右のレーザーを失い、中央のレーザーのみ発射可能となったが、ヒュドラの額を貫くだけなら今の火力でも十分。そして柊吾の背には、右と左に三本ずつメタリックな輝きを放つ筒が装着されていた。小型のレーザー砲といったところで、肩部装甲との連結部が外れることにより光線のチャージが始まるため、どうように使うかは本人以外謎だ。


 柊吾は洞窟から外を見る。ここへ来るのは二度目。洞窟から見える景色はなんら変わらないが状況は変わり、今回は勝ちにいく。新たな仲間キュベレェの光をとり戻すために。


「――よし、みんな行こう!」


 五人は洞窟から飛び出した。

 キュベレェが先頭、ニアがその後ろを飛行し、柊吾とメイ、デュラは疾走して深淵の滝を目指す。


(やっぱりいるのか……)


 以前同様、木々の立ち並ぶ周囲から敵意ある視線を感じた。

 ねぶるように、猛然と駆け抜ける柊吾たちを監視し続けている。

 やがてそれは、樹木の密集する雑木林へ差し掛かると、一斉に襲いかかって来た。

 四方八方から数多の枝と蔦、そしてイバラのムチが襲いかかる。


「はぁぁぁっ!」


 柊吾は腰のバーニアを噴射して飛び上がり迫りくる蔦とムチを一太刀で薙ぎ払う。途切れず迫る第二波を回転し切り抜けると、前方の幹を蹴って方向転換し急降下してアルラウネを叩き斬る。敵は一撃のもとに死に絶え、その真っ赤なバラは変色し枯れた。

 柊吾が上空を見ると、ニアとキュベレェが華麗に立ち回っていた。

 迫る植物など、どれだけ厚くとも竜の爪の前では紙切れのようなもの。野生児のニアは余裕そうな表情で縦横無尽に暴れまわる。

 キュベレェにいたってはこの密林の主。ここは庭のようなものだ。怪樹の位置など手に取るように分かる。


「そこです!」


 手に形作った黄金の弓を引き放つと、光り輝く矢が高速で射出される。さらに素早く向きを変え二連射。

 すべて樹木の目玉に直撃し、一瞬のうちに怪樹三体を葬った。

 素早く周囲を見回して弓を霧散させると、密林の奥へと飛翔する。


「時間がありません。ヒュドラが現れる前に早く!」


「ああっ!」

  

 柊吾たちもすぐ後に続く。

 以前に来たときとはスピード感が段違いだった。

 

 深淵の滝へ近づけば、九つもあるヒュドラの頭のどれかが向かってくるのは自明の理。

 薄暗い森のど真ん中で、柊吾たちはとうとう遭遇してしまった。


「あと少しというところで……」


 キュベレェはその場で滞空し悔しそうに顔をしかめる。

 柊吾はメイを後ろに下がらせ、バーニアを噴射してヒュドラの真正面へと突っ込んだ。

 ヒュドラは真正面に捉えた柊吾へ攻撃しようと、猛毒ブレスを口に溜め顎を引く。

 だがそう簡単に攻撃を許しはしない。

 

「させません!」


「こっちだよ~!」


 右からキュベレェが矢を放ち、左からニアが爪を振り下ろす。そのどちらもヒュドラの目に直撃し、視界を奪うことに成功。


 ――グヲォォォォォンッ!!


 怒り狂ったヒュドラはおぞましい雄叫びを上げた直後、その場で首を振りまわす。同時に溜めていたブレスを放射し、周囲へ手あたり次第に猛毒を振り撒いていく。

 だがキュベレェとニアは既に高く上昇し距離を離していた。

 目の潰れたヒュドラには敵が倒れたかの判断はつかない。嗅覚を研ぎ澄ますためか、一旦その場で首をもたげて静止した。

 その隙を騎士の一撃が貫く。


「今だっ!」


 ヒュドラの頭上にはデュラの影。柊吾は右手で、射出されたランスを掴みデュラを引き上げ、左手の射出でメイの手を引き寄せて上空へ退避していたのだ。

 デュラはバーニングシューターを両手で逆に持ち、コアがあるであろうヒュドラの額を深々と貫いた。

 ヒュドラが苦しそうに唸り暴れ出す。しかしコアを破壊するには至っていないようだ。だがそれも想定の範囲内。

 デュラは振り落とされる前に、バーニングシューターの射出機構を起動する――


 ――グワァァァァァァァァァンッ!!


 爆発による穂の射出を零距離で受けたヒュドラの額からは、盛大な血飛沫を上げた。コアへ穂先が届いたのだ。

 ヒュドラは断末魔の叫びを上げて体をうねらせ倒れ、大きな地響きを伝搬させた。

 バーニングシューターによってコアの破壊に成功。

 しかし柊吾は勝利の余韻に浸ることなく、地面に降りメイを下ろすと森の奥へと駆け出した。


「先を急ごう!」


 デュラもヒュドラの頭から飛び降り駆け出す。

 ニアとキュベレェは先に深淵の滝へ向かっていた。

 ここにかたまるよりも、深淵の滝でヒュドラをばらけさせないためだ。本体の沈む深淵の滝であれば、九つの頭が全てそろうはず。ヒュドラを倒すにはそこを狙うしかない。

 柊吾たちは背後のヒュドラが再生する前に、キュベレェたちの後を追うのだった。

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