ゴルゴタウロスの脅威
柊吾が家へ帰ろうと歩いていると、眼鏡をかけた温厚そうな黒髪に声を駆け寄って来た。クロロの部下のアインだ。
「設計士様!」
「アイン? そんなに慌ててどうしたんだ?」
「設計士様を探してたんです。家に誰もいなくて、紹介所に行ったらクエストに出られたと聞いたので、お待ちしてました」
アインはホッと安堵し肩の力を抜く。
柊吾は少し違和感を覚えた。家に誰もいないとはどういうことなのか。アインはデュラを知っているから、漆黒の鎧の騎士がたとえ微動だにしていなくても、認識できるはずだ。
しかし柊吾は、アインからもたらされた新たな情報に興味をそらされた。
「実は新しい土地が発見されたのです。海専隊が航海の途中で見つけて、探索部隊を編成して突入したのですが……とにかく、今から駐屯所へお越し頂けませんか?」
突然の申し出に柊吾は戸惑うが、それでも新たなフィールドというのは非常に気になるところ。
デュラのことは少し気になるが、今は情報が新鮮なうちに把握しておきたいと思い、アインについて行くことにする。
駐屯所に入り二階に上がると、事務員の女性に奥の部屋へ案内される。
ここに来たのも久しぶりだと柊吾が懐かしんでいると、すぐにグレンが入って来た。
「忙しいところすまない、柊吾」
「いえ、気になることを聞いたので」
グレンは柊吾に座るよう促し、応接用のソファに二人向かい合って座る。
「海専隊のことは知っているな?」
「もちろんです」
「海専隊はカムラの西側から沿岸沿いに、長い間航海を続けていた」
まずは海専隊の開拓方法の説明から始まる。
彼らは船での移動は少人数で行い、船に転移石を置いて一日毎に船員を交代しながら、ひたすら海上を進み続けていた。良質な素材の採れそうな土地を見つけては停泊し、開拓を試みるが良い発見は中々ない。
「それでも我々は諦めず、海を制覇する勢いで視界の悪い中、航海を続けた。そして見つけたのが『神殿の遺跡』だ」
「神殿の遺跡?」
柊吾は息を呑む。神殿という名前からして、明らかに特別ななにかがありそうな雰囲気だ。彼は興奮が抑えきれず、身を乗り出すようにして聞いた。
「そ、そこになにがあったんですか!?」
「まあ落ち着け。今の君同様に我々も期待に胸を膨らませ、その遺跡に足を踏み入れた。だがな、ほとんど先に進めなかったんだ」
「なぜですか?」
柊吾が問うと、グレンは眉を寄せ沈痛な面持ちになる。
「遺跡には恐ろしい魔物がいたんだ。上半身は蛇の髪を生やした一つ目のバケモノで下半身は馬。我々はこれを『ゴルゴタウロス』と命名した」
「ゴルゴタウロス……クラスとしては?」
「Bか、へたしたらAだ。それについては、実際に戦ったクロロに話してもらうとしよう」
そう言ってグレンはクロロを呼んだ。
彼は近くに待機していたようで、すぐに入って来た。グレンに促され、クロロはゴルゴタウロスの説明を始める。
「俺たちは最初、初めて見る魔物に戸惑いはしたが、隊列を組んで冷静に攻撃を始めた。だが奴は、とんでもない力を持ってたんだ。それが石化の魔眼だ。突撃した隊員たちは一人残らず石になってしまった」
そう言ってクロロは悔しそうに拳を握りしめる。
石化の魔眼。魔物の名前を聞いたときから予想はできていた。
「奴の力が魔眼くらいならまだなんとかなったんだがな、奴は下半身が馬だってこともあって、かなり素早い。それに力もあった――」
結局、生き残った騎士たちが決死の覚悟で囮になり、石化した者の一部を白魔法で助け出すことに成功。だがあまりに強すぎる敵を前に、騎士たちの心は折れたようだ。それがカトブレパスのような鈍足であれば、石化の魔眼を持っていようとやりようはあったかもしれないが、本体の強さも尋常でないというのなら仕方ない。
クロロの話が終わると、グレンは「柊吾」と神妙な面持ちで呼びかける。
言わんとしていることはすぐに分かった。
「……俺が行きます」
「すまん、俺たちの力が及ばないばかりに……」
クロロはそう言って悔しそうに両の拳を握りしめ唇を噛む。
グレンも立ち上がって頭を下げた。
「よろしく頼む、設計士殿――」
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