失踪
神殿の遺跡での開拓を約束した柊吾は、駐屯所を出て家へ歩いていく。
辺りは暗くなり、夜が訪れようとしていた。
遺跡へはすぐに出発するようなことはせず、まずはしっかりと準備を整えるべきだ。
新たなフィールドへの期待に胸を膨らませ、柊吾が家に帰りつくとメイとニアも孤児院から帰って来ていた。
二人は柊吾の姿を視界に捉えると、満面の笑みを浮かべた。
「お兄様、お帰りなさいませ」
「柊く~んお帰り~」
「うん、二人もお疲れ」
そう言って柊吾も微笑み返し、先日新調したソファに腰を下ろそうとするが、デュラの姿がないことに気付く。
「あれ? デュラは?」
「え? お兄様と一緒ではなかったんですか? 私たちが帰ったときからいらっしゃいませんでしたが……」
そのとき、柊吾はハッと顔を上げる。
昼間、アインが気になることを言っていたと、今になってようやく思い出したのだ。彼は、家には誰もいなかったと言っていた。つまり、柊吾がクエストから帰ったときには既にデュラは家にいなかったということ。
あの誠実なデュラが柊吾に黙って姿を消すなど、想像もつかないことだった。
不安に陰る柊吾の顔を見たメイは、食事の支度をしていた手を止める。
「なにかあったのですか?」
「……分からない。でも、デュラを探さなくちゃ」
不安に駆られた柊吾は、居てもたってもいられず家を飛び出した。メイとニアも慌ててその後ろに続く。
「俺は商業区の辺りで聞いて回るから、メイは広場周辺、ニアはこの付近を頼む。見つかったり、なにか情報があれば、メイの元へ行ってもう一人にも伝えてもらうようにしよう」
「はい」
「分かった~」
三人はすぐに散らばり、デュラを探し始める。
駆け足で周囲を見回しながら、柊吾はこうなった原因を必死に考える。だが当然、なにも心当たりがない。
商業区へ辿り着くと、既にどの店も閉めており、通行人もまばらだった。
柊吾は一人一人声をかけて、漆黒のマントを羽織った騎士を見なかったかと聞いていく。
通行人たちは、今をときめく設計士に声をかけられて、感極まる者やなにかあったのかと訝しげに眉をひそめる者、自分の話に引き止めようとする者など、反応は様々だった。
しかし、誰もデュラの姿は見ていない。
「――どこに行ってしまったんだよ……」
柊吾は通りの真ん中で立ち止まると、肩を落とし顔を歪めて呟く。
イライラはなく、ただただ不安だった。
デュラは、パーティーメンバーの中でも一番の古株。彼は、困難に見舞われた柊吾をいつも支えてくれていたのだ。デュラなしでこの先戦い続けるなど柊吾には考えられない。
次第に焦りが募っていく柊吾は、親友を頼ろうとシモンの鍛冶屋へ足を向けた。そのとき、脳裏にメイの声が響く。
(お兄様! 聞こえていますか!?)
(メイ? 見つかったのか?)
柊吾はすぐに大通りの脇へ移動し、目を閉じてメイに答える。
(目撃者がいました。デュラさんは、浜辺にいるそうです)
(浜辺? なんでそんなところに……とにかく、俺もすぐに行くよ!)
浜辺と聞いて柊吾は眉をしかめるが、すぐに方向転換し駆け出した。
そこに一体なにがあるというのか。
デュラが無事で一安心だが、それでも柊吾の胸騒ぎは収まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます