デュラの葛藤
柊吾、メイ、ニアは広場から浜辺へ続く道の途中で合流した。
辺りはすっかり暗くなり、照明が灯っている。
柊吾たちが浜辺まで行くと、デュラが砂浜で膝を抱え哀愁を漂わせながら海を見ていた。
「――デュラ!?」
柊吾が声を上げて駆け寄ると、デュラは慌てて立ち上がり柊吾へ振り向いた。柊吾たちが目の前まで来ると、深く頭を下げる。
「いったいなにがあったんだ?」
柊吾が神妙な表情で問うと、デュラは静かに首を横へ振った。
ますます訳が分からない。
らちが明かないと思ったのか、デュラはメイへ顔を向ける。柊吾も彼の意図を察し、メイへ言った。
「頼む、メイ」
「はいっ」
そう言ってメイは目を閉じる。デュラの魂に干渉し、彼の意思を代弁しようというのだ。
柊吾は少し緊張していた。
普段はデュラの仕草で思いが伝わるため、メイに彼の思いを伝えてもらうことはほとんどなかった。
そう思い返すと、自分はデュラとしっかり向き合ってこなかったのではないかと、思わされる。
「デュラ、教えてくれ。なんで一人で家を出たんだ?」
静寂に柊吾の言葉が吸い込まれる。
微動だにしないデュラ。僅かな沈黙が不安を増大させる。
やがてメイがデュラの言葉を代弁した。
「『それは、一人で考えたいことがあったからです』」
「考えたいこと?」
柊吾が首を傾げて聞き返すと、デュラは頷いた。
「『はい。私は今の
「は? なんでそんなことを……」
「『最近の私は、まったく主のお役に立てていません。それどころか邪魔になっているような気すらするのです』」
「んなっ!? そんなわけだろっ!」
柊吾は感情的になって大声で否定する。
ニアもそれに続いた。
「そうだよ~」
「『本当にそうでしょうか? メイ殿とニア殿は、クエストに出ないときは孤児院で働いて稼いでいます。それにお二人は、ご自身にしかない特殊な能力まで身に着けておられる。私はどうでしょう? 戦う以外に能がなく、その唯一の取柄ですら、主の機動性には追いつけない。だというのに、装備の維持費は誰よりもかかる。戦うための武器だって主に設計して頂いたもの。これを邪魔と言わずしてなんと言うのです? だから私は、主の元にいてはご迷惑になると思った次第』」
その言葉を聞いた柊吾は、胸を締め付けられる思いだった。
大事なことを忘れていた。たとえ生身の肉体がなくとも、喋れなくとも、デュラには人としての心があるのだ。
そんなことを忘れていた柊吾は、顔を歪ませ目を逸らす。
彼の代わりにそれを口にしているメイも、辛そうに頬を歪ませていた。
「柊く~ん……」
ニアが瞳を揺らしながら、動揺する柊吾の横に並ぶ。
柊吾はニアの頭を優しく撫でると、デュラに向き直った。
「俺はデュラを邪魔だとか、迷惑だとか、思ったことなんてない。でもっ……本当にごめん。デュラがそんなに悩んでいたなんて、思いもしなかった」
柊吾は悲しげに眉尻を落としそう告げると、頭を下げた。
デュラは下へ向いていた視線を上げる。
「『主様……』」
「確かにメイとニアは、デュラにはない特別な力を得た。でも、その二人を支えてくれているのは、まぎれなくデュラだ。それを忘れないでほしい。デュラの冷静な判断力や、挫けない強い意志が俺たちには必要なんだ」
「そうです!」
「そうだよ~」
すかさずメイとニアも頷く。
デュラは二人を見回し、感極まったように肩を震わせた。
「『私は、あなたの側にいてもいいのですか?』」
「当たり前だ! 勝手に離れるなんて許さない!」
「『迷惑ではないのですか?』」
「そんなことを思ったことは一度もない。いてくれないと俺が困るんだ」
「『……私はなんと、恵まれて――』」
メイはそこまで言うと、嗚咽を漏らし始めた。すっかり感情が乗ってしまっているようだ。これではデュラの言葉の続きが聞けない。
しかしもう、言葉はいらなかった。
柊吾は足を踏み出し、デュラの鎧の体を抱きしめる。
「そんな辛い思いしても、俺と一緒に戦ってくれてありがとう。これからもよろしく頼む」
ガシャンガシャンとデュラが大きく頷いているのが分かる。
後ろでニアも泣き出した。
「良かったよ~~~」
「……まったく、手のかかる仲間たちだよ」
柊吾は照れ隠しにそう言って、満面の笑みを浮かべたのだった。
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