ハーレム設計士

 あれからメイとニアは少しずつ打ち解け、今では一緒に服やアクセサリーなどを買いに行く仲だ。メイいわく、可愛らしい服や綺麗なアクセサリーを見せたときのニアの反応を見るのが楽しいらしい。自分の給料で買ってあげたりもしているようだ。

 メイの休日、二人がウキウキと上機嫌で出かけていくのを見届けた柊吾は、山脈で集めた素材を持ってシモンの鍛冶屋へ向かった。


「――一体なんの用だい? 『ハーレム設計士』くん」


 シモンは柊吾の姿を見ると、眉をしかめ吐き捨てるように言った。

 柊吾は来て早々に喧嘩を売られ、目を吊り上げる。


「いきなりなんだよ!」


 そう吠えるが、内心では中々上手いことを言うのものだと感嘆していた。


「僕は知ってるんだぞ。君は冒険に出かけて、新しい素材じゃなくて、新しい愛人を見つけてきたって! いかがわしいことこの上ないヤツだって聞いたぞ!」


「ちょっ、ちょっと待て。どこからそんなデタラメな情報を……」


「メイちゃん」


 ガタンッ!

 柊吾はずっこけそうになる。


「あのなぁ……愛人っていうも、いかがわしいっていうのも全て誤解だ。メイの思い込みなんだよ。さらに言うなら、新しい素材だって見つけてきた」


 柊吾は疲れたように肩の力を抜きながら言い放ち、アイテム収集袋を眼前に掲げた。

 しかしシモンはそれに目も向けない。


「でも、一緒に住んでるんだろ?」


「……まあ」


「ほれみろ! もう君の言葉は言い訳にしか聞こえないからな!」


「あっそ……分かったよ、それでいい」


 柊吾はやれやれとため息を吐いてアイテム袋を横の長机に置く。


「はんっ、勝ち組の余裕ってやつか。腹立たしいねぇ……まぁいいや。なんの用だい? 例のものなら完成してるよ」


 シモンはそう言って奥の鋼鉄製の台に置いていたランスを持ってくる。

 ランスの名は『バーニングシューター』。マンティコアの素材から柊吾が設計したデュラの武器だ。見た目は通常の長く鋭い騎士用のランスだが、持ち手を守る傘の部分『護拳』と穂の部分が着脱可能な機構になっている。持ち手のボタンを押すことで、マンティコアの内部器官を加工した護拳が、瞬間的に小さな内部爆発を起こし、穂を前方へと射出するという構造だ。また、穂の中心と護拳はアラクネの糸で繋がっており、下のボタンを押すことで、オールレンファング同様の巻取り機構が作動し、ランスを元の状に戻すことが可能。ちなみにオールレンジファングの巻取り機構は、風魔法の吹きつけによって回転機構を回すが、バーニングシューターでは、押し込み力を回転エネルギーに変換する機械的な手法を用いている。


「助かる」


 柊吾はそれを受け取って全体を見回すと、完成度の高さに感嘆した。


「おっと、ここでは射出するなよ? 試射はフィールドでやってくれ」


「了解」


 柊吾はそれを横の壁に立てかけると、持ってきていたカラス天狗の服と翼をシモンへ渡す。服はニアが元々着ていたものを譲り受けた。さすがに魔物の服を着ると目立ちかねないためだ。ニアに聞くと、山脈では他に着る服がなかったために、カラス天狗を倒して奪い取ったらしい。さすがは野生児。

 ついでに、山脈で採れた性質不明の頑強な鉱石も渡し、アークグリプス戦で傷ついた隼の補強を依頼した。

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