仇
「こんばんは、ハナさん。迷惑でなければ、ご一緒してもいいですか?」
柊吾が声をかけると、ハナはゆっくり顔を向けた。
「あなたは昼間の……ええ、構わないよ」
柊吾はハナの柔らかい笑みに安心し、向かいに腰を下ろす。デュラとメイもその横に続いたので、ハナは不思議なものを見る目でジッと見ていた。ハナの向かいに柊吾、左隣にメイ、さらにその左隣にデュラが座り、珍しい組み合わせだと周囲の視線を一斉に集めた。
ハナは彼らの視線など気にせず、桜の花びらをあしらった上質の
「自己紹介がまだだったね。私はハナ。堅苦しいのは嫌いだからハナでいいよ。聞いたと思うけど、ハンターをやってるの」
「俺は加治柊吾。俺もハンターをやってるんだ。こっちはメイ、その横にいるのがデュラ。二人もハンターだ。よろしく頼む」
「ええ、よろしく」
柊吾が右手を差し出すと、ハナも微笑みながら右手を伸ばし握手を交わした。
挨拶を終えてすぐに料理が運ばれて来た。
柊吾には米と肉料理に野菜と火酒、メイには少量の野菜のコンソメスープ、デュラには泡を立てた麦酒が一杯。
「……随分と偏っているんだね?」
ハナが向かいに並んだ料理を見て、目を丸くする。
「あ、あぁ。二人とも今日はお腹一杯みたいなんだよ」
柊吾は額に冷や汗を浮かべ、無理やり笑みを浮かべる。デュラはコクリと頷き。メイも「そ、そうなんです」と作り笑いを浮かべた。
ハナは胡散臭そうなジト目を向けていたが、「そう」と頬を緩ませ話題を変えた。
「そういえば、最近よく噂になってた赤髪のハンターって、もしかしてあなた?」
「え? そ、そうだけど……」
柊吾は自分の噂と聞いて、討伐隊の業務妨害やら処刑やらの噂じゃないかと顔が青ざめる。ハナも柊吾が悪い噂を連想しているのを察して笑う。
「凄く活躍してるって噂だよ。カオスキメラを撃退したり、コカトリスを討伐したりしてるってね」
「そうなんです。お兄様は凄いお方なんです!」
なぜかメイが興奮したように身を乗り出す。食事を楽しめないから退屈していたのだろう。
柊吾はメイに落ち着くよう言い聞かせて座らせる。
ハナはクスクスと笑っていた。
「可愛らしい妹さんね」
「あ、ああ。ところで、ハナはクラスBなんだよね? これからもハンターを続けていくの?」
柊吾はずっと聞きたかったことを聞いた。大した質問ではないと考えていたが、ハナは思いのほか真剣な表情になった。
「うん。まだ辞めるわけにはいかないの。『あいつ』を倒すまでは」
「あいつ?」
柊吾は反射的に聞き返す。ハナの雰囲気が戦闘時のように鋭利になり、その瞳に憤怒の炎が見えた。
ハナはすぐ我に返り、自分の発言を後悔したようだったが、柊吾たちの心配するような表情に負け、ゆっくり語り始める。
「面白い話じゃないけどいい?」
「もちろん」
「……あいつっていうのは、クラスAモンスター『ベヒーモス』のこと」
「クラスAモンスター……」
柊吾は息を呑み呟く。
「私には弟がいたの。私よりも強くて勇敢な弟が。でも、私たち兄弟はベヒーモスに負けたわ。そのとき弟がベヒーモスから私をかばって……」
ハナの表情が悲痛で歪む。その先は聞くまでもなかった。
メイが柊吾の袖をギュッと握り、柊吾は重苦しい表情でハナの話を遮った。
「そんなことが……でも、仇を討とうにも相手がクラスAじゃ、一人では無理だろう?」
「それでも、私は戦わなくちゃいけないの」
「それならもし、ベヒーモスと対峙することがあったら、俺たちを頼ってくれ」
ハナは弾かれたように顔を上げた。戸惑いの表情を浮かべている。
「え? い、いえ、無関係なあなたちを巻き込むわけには……」
「俺だって助けてもらったんだ。困ったときはお互い様だよ」
「……そんなことを言われたのは初めて。でも、相手はクラスAなんだよ? 怖くはないの?」
「そりゃ怖いさ。実際にクラスAと対峙したことがあるから、その恐ろしさが体が覚えてる。でも、それはハナ一人で戦わせる理由にはならない」
「柊吾くん……ありがとう……」
ハナは頬をほんのりと赤く染めながら、微笑んだ。
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