いつでも一緒
「――クラスBハンターか……」
柊吾は事件当時の状況を根掘り葉掘り聞かれた後、討伐隊の駐屯所で謝礼として金品を受け取り家に戻った。メイも精神的に疲れたのだろうか、新しく買ったカトブレパスの毛皮製のソファでぐったりしている。
柊吾は床の上にあぐらを掻き、腕を組みながら考え込んでいた。
クラスB、それは現在バラム商会に所属しているハンターの中で最上級のクラスだ。もちろん、クラスAがないわけではない。ただ、それに相当するレベルとは、例えばナーガやケルベロスのようなクラスAモンスターを単独で軽々と倒せるレベルになければならない。そんなこと、どう考えても無理がある。
クラスBハンターとて、クラスAモンスターと対等に渡り合える実力を備えているが、そんな実力を持ったクラスBがAに上がらない理由はもう一つある。
それは強い者ほど、出世して戦場から遠ざかるからだ。クラスBほどの実力があれば、お偉方の側近になったり、地区長になったりできるので戦って稼ぐ必要がなくなる。領主の側近のうち一人がハンターの風貌だったのも、そういう事情だろう。
そんな特別な存在だからこそ、柊吾はハナに興味を持った。彼女がハンターをやっている今のうちに、同じパーティで一緒に戦ってみたいと思った。
「……もうこんな時間か」
柊吾はすっかり日が沈んでいることに気付き立ち上がる。
(久しぶりに酒場にでも行くか)
酒場にもし情報屋でもいたら、クラスBハンターの情報について交渉しようと考え、出かける支度を始めた。
すると膝を立てて微動だにしていなかったデュラが突然立ち上がり、柊吾へ顔を向けた。
次にメイがソファからのっそりと起き上がる。
「お兄様? 一体どちらに?」
「ちょっと酒場に行ってくるよ。二人はもう寝てて」
「そ、そんな……どうか私も連れて行ってください。味覚はなくても隣にいるぐらいは出来ます」
メイが急に目を潤ませ、必死に訴えかける。
それに乗っかるように、デュラもガシャンガシャンと首を縦に振る。
「いやデュラ、君はそもそも飲み食いするための肉体がないじゃないか。君が行ってもしょうがないよ」
柊吾は当たり前のことを言った。しかしデュラにとっては思いのほかショックだったようだ。勢いよくズシャンッと両膝を床に落とし、悲しげに両手を床についている。
するとメイがデュラに駆け寄ってその背に手を置き、訴えるように潤んだ瞳で柊吾に懇願する。
「お願いします、お兄様。私たちを連れて行っていただけませんか?」
柊吾は「う~ん」と腕を組んで悩むが、結局は二人の『柊吾と一緒にいたい』という純粋な気持ちに負け、やむなく承諾した。
「――いらっしゃいませ~」
広場の横にある酒場に入ると、以前と変わらず賑わっていた。
(まさか、俺がパーティーを引き連れて来るなんてな)
生涯孤独の身だと思っていた柊吾は少しだけ喜びが湧き上がって来る。しかし、アンとリンのことを思い出し、浮かれまいと思い直す。
かく言うメイは浮かれていた。
「わぁ……お兄様、酒場って笑顔が溢れてるんですね」
純粋なメイに苦笑する。今も着ている豪勢な衣装を見るに、庶民的な店とは無縁の人生を送って来たのだろう。本人は覚えていないのだろうが、それは間違いないはずだ。
柊吾は、マントで全身を覆っている不気味なデュラと、目を輝かせて辺りを見回しているメイを連れ、三人で座れる席を探す。ついでに情報屋の姿も見逃さないよう、仔細に目を配る。
しかし先に人を見つけたのはメイだった。
「あら? あちらのお姉さんは……」
メイの視線の先を追いかけると、ハナがいた。今は甲冑を着けていない着物姿だ。上品な所作で高級そうな酒を楽しんでいる。防具はないが、相変わらず般若の仮面は頭に乗せている。
優雅で気品に溢れ、周囲の喧騒から隔離されているかのようだ。それ故に、非常に近づきづらい。だが折角の機会、逃すにはあまりに惜しい。
(大丈夫、こっちには王族っぽいメイがいるんだ)
柊吾はメイを真横に抱き寄せ、大人げなくも盾にしてハナへ突撃する。ちなみに、メイは突然強引に抱き寄せられたことで、真っ赤になって目をグルグル回していた。
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