シモンの正念場

 一方、シモンはレーザーカノンの完成に苦心していた。

 高台への据付は完了し、既に調整段階に入っている。ファランは部下や鍛冶職人たちに指示を出し、最低限の機能性能試験だけでも済ませているところだ。

 彼らの中には、フリージアから来た技師もいたが、カムラのために嫌な顔一つ見せず力を貸してくれた。

 シモンも自分の責務を果たさねばならない。


「ここが正念場しょうねんばか」


 シモンは紹介所の椅子に座り、机には多くの図面を広げて必死に頭を巡らせていた。

 調整段階を急ピッチで行っているファランに対して、シモンのなすべきことは、レーザーカノン発射の手立てを考えること。

 機能試験として試射もしているが、それはほんの数パーセントの出力に過ぎず、数人の魔術師に雷魔法でバッテリーを充電してもらっているだけだ。

 ダンタリオンを倒そうとするのなら、設計上のフル出力で撃たなければ射程距離も威力も全く足りない。だというのに、その方法については未だ検討段階なのだ。

 ファランも柊吾も答えが出せていないという高難度さに、シモンは唸るしかなかった。


「とうしたもんかなぁ……」


「大丈夫ですか? 良かったら、これどうぞ」


 いつの間にか看板娘のユナが目の前にいて、温かいお茶の入ったカップを差し出してきた。

 シモンは歯切れ悪く「あ、ありがとう」と礼を言うと、カップを受け取り、図面の端に置いた。

 ユナは申し訳なさそうに肩を落とし、声のトーンを落とす。


「私にはこれぐらいしかできませんから……」


「え? い、いやそんなことはないよ」


「ありがとうございます……とにかく、なにか私でもお手伝いできることがあれば、おっしゃってください! ユリ姉さんとユラ姉さんも引っ張り出して頑張りますから!」


「その気持ちだけで十分だよ」


 シモンはユナの言葉だけでありがたかった。思わず顔がほころぶ。

 それでもユナは、なにかしたいとうずうずしているようで、突然なにかを閃いたように「あっ!」と声を上げた。


「もし私たちが女だから、お手伝いは無理だと思われているようでしたら、ご心配無用ですよ。力仕事だってできちゃいますから! ユラ姉さんなんて、実は怪力で――」


「――ユナ!?」


 黙って話を聞いていたユラは慌てたようにユナの名を呼ぶ。

 その様子がおかしくて、シモンは思わず笑ってしまった。

 

「ありがとう。でも、本当に大丈夫だ」


「そうですか……」


 ユナはしょんぼりと肩を落とす。

 シモンは彼女の期待に応えられなくて、申し訳なく感じた。

 しかし、やはり技術的な作業をさせるのには抵抗がある。

 設置した雷の杖でバッテリーに充電するぐらいならできるかもしれないが……


「………………ん?」


 そのとき、シモンの脳裏になにかが引っ掛かった。

 急に彼がぶつぶつとひとり言を呟き始め、ユナは邪魔をしないようにと、受付へ戻っていく。

 

 ――今足りていないのは、ハイパーレーザーカノンの電源となる大容量バッテリーの充電量。つまり、元を辿れば雷魔法で充電するための『魔力』。

 だがそれは、このカムラに済む領民全員から集めることができれば、おそらく足りるだろう。

 とはいっても、領民全員を集めて順々に魔力を使って充電してもらうには、時間がかかりすぎる。せめて全員同時にバッテリーへ雷を送ることができれば――


「――そうかっ、その手があったか」


 そのときシモンは閃いた。

 それは、彼が柊吾の友であったからこそ、辿りつけた結論だった――

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