魔術機動・強化装甲
そして、十年後――
「――見つけた」
倒壊した民家の影に隠れながら柊吾が呟く。齢二十二歳の彼が今いるのは、フィールド『廃墟と化した村』。数十メートル前方に見えるのは『イービルアイ』二体と『カトブレパス』一体だ。クエストの達成目標は『イービルアイの巨眼×2』。カトブレパスは余計だが、
「コイツのテストには丁度いいか」
呟いて廃墟から飛び出し、モンスターたちへ走っていく。
その両足には噴射機構付の義足。両方の太もも側面に、キャノン砲のような短めで四角い噴射バーニアが装着され、ブーツには左右と足の裏にも小さな噴射口が付いている。義手には腕から肘にかけて車のマフラーのようなバーニアが伸びており、腕の向きによってあらゆる方向へ噴射が可能。それらは暗めのメタリックカラーでコーティングされており、名を魔術機動・強化装甲『
柊吾が走り出してすぐに上空のイービルアイ二体が反応した。巨大な目玉の後ろに生えた翼を羽ばたかせ、柊吾へ狙いをつける。そして、二体とも目の中央に光の収束を始めた。
「………………そこだっ!」
イービルアイたちの目から高熱量のレーザーが放たれる寸前、柊吾は左足で地を蹴ると同時に、ブーツ裏の噴射口で炎魔法による『燃焼』と風魔法による『圧縮』でバーニアを起動した。
――バシュゥゥゥンッ!
噴射の轟音と共に地が砕けた直後、二本のレーザーが地面を焼く。
柊吾は既にイービルアイと同じ高度まで飛び上がっていた。先ほどと同じ要領で腰下のバーニアを背面へ噴射する。
敵の高速な接近に気付いたイービルアイが第二射を諦め、その硬い
「遅い!」
瞬時に間合いを詰めた柊吾が巨眼を横一文字に薙ぎ払う。
「キィィィィィッ!」
断末魔の悲鳴を上げ、イービルアイは墜落していく。柊吾もまた、次の相手へ迫るべく腕の噴射で向きを変える。十メートルは離れた二体目は既に光を収束させていた。
柊吾は構わず、腰バーニア出力全開で真正面から突っ込む。
しかし、間に合うこともなくイービルアイのレーザーが放たれる。その瞬間、左腕を顔の前へ突き出し叫んだ。
「アイスシールド!」
直後、柊吾の左腕に蒼白く半透明の大きな盾が生成され、レーザーを受け止めた。
「ぐぅぅぅぅぅっ」
レーザーの力とバーニアの力が均衡する。すぐにレーザーの放射が終わると、柊吾は左腕を横へと払い右の大剣の切っ先を前方へ向ける。そして右腕肘で噴射突進し、巨眼の中央へと深く突き刺した。
「キィィィィィッ……」
イービルアイの下瞼を足の裏で蹴り、剣を引き抜くとその死骸は落下していった。
そしてすぐ下、上空での戦いに見向きもしていない、灰色の強靭な外殻と体毛に覆われたカトブレパスが目に入る。四足歩行で馬などよりも一回り大きいが、その長い頭の重さのせいか地面すれすれまでしか顔を上げられていない。
柊吾は断続的なバーニア噴射で敵の頭上まで移動すると、大剣を両手で振り上げた。
「うおぉぉぉぉぉ!」
急速に落下し、カトブレパスの背中から渾身の一撃を叩きつける。
「グオォォォォォン」
カトブレパスは野太い声で唸り声を上げると、勢いよくその場に倒れた。
カトブレパスは防御力が高く、接近戦ではその重たい頭を振り回しさらに、その目を見た者を石化させるという厄介なモンスターだ。しかし上空からの襲撃には滅法弱い。
「ふぅ……」
柊吾は大剣を地面に突き立てると、背後のポーチから伸縮式のゴム袋を取り出し、イービルアイの死骸の元へと歩いていく。そしてその半径二メートルはある目玉を抜き取りゴム袋に入れた。袋は大きく伸び、まるでサッカーボールをネットに入れているかのようでもある。
見かけによらずイービルアイの素材は有用だ。光線を放つ目玉は加工することで、瞬間的に光を発散させる使い捨てアイテム『フラッシュボム』になり、硬い瞼や翼は防具の強化素材になる。しかし常に滞空しており、レーザー照射が強力であるが故に討伐は楽ではない。それでもクラスCの低級モンスターだ。
モンスターはクラス分けによって、その危険度が明確化されている。まず最下位はクラスD。これに該当するモンスターは『アビススライム』一体しかおらず、人やエルフの討伐隊がこのレベルにある。つまり、ほぼ全てのモンスターが各上なのだ。凶霧が発生する前であれば、『ゴブリン』や『ワーウルフ』などが存在していたそうだが、弱い種族は凶霧に飲まれその姿を消した。
次にクラスC。『イービルアイ』や『カトブレパス』などがこれにあたる。通常の装備であれば、ソロでの討伐も厳しい。通常は四人以上のパーティで戦うことを推奨されている。
次にクラスB。これはクラスCの力を大幅に上回るものが該当する。大勢で挑んでも勝てる可能性が低い大型魔獣ばかりで、例えば『カオスキメラ』や『コカトリス』が該当する。
そしてクラスA。恐らく凶霧発生以降、一体も討伐に成功していない凶悪な魔物たちだ。目撃情報があるものでは『狂戦獣ベヒーモス』がいる。
それ以上のクラスについては、どの書物にも載ってはいなかった。ただ、クラスSが存在しているとの噂もたまにある。
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