最後の機会
メイを通じて一か八かの柊吾の作戦を聞いた仲間たちは、文句ひとつ言わず、ヒュドラたちを相手に立ちまわる。
ハナはアギトに帯電を始め、デュラには帯電の完了していたブリッツバスターを、キュベレェにはトライデントアイを託し、柊吾は後方で指揮をとった。
「――まったく、静かに見守ってるんじゃなかったのか……」
柊吾は前に出てメイとニアを背にかばい、静かに目を閉じると、感覚を研ぎ澄ました。
ここは凶霧の蔓延する密林。紫雨にばかり気をとられがちだが、怪樹やアルラウネは凶霧によって生まれた魔物だ。つまり、怨嗟の魂の集合体である。
であれば、今の柊吾に操れない道理はない。
「お兄、様……」
メイが不審げに呟く。
柊吾の周囲に黒い半透明の風が集まり始めたのだ。それは激しさを増し、禍々しい色を放ちながら柊吾を飲み込まんとしているかのようにも見える。
「ぐっ……」
柊吾は激しい吐き気を催したが我慢した。
そうだ。
今、彼の元に集まっているのは、憎悪や後悔を抱き無念に死に絶えた者たちの魂。精神が汚染されそうになる。
だが、今まで数々の絶望を乗り越えてきた、柊吾の精神力とて並ではない。
歯を食いしばり、確固たる意志を以ってその魂たちを従え纏う。
「はぁぁぁぁぁっ」
柊吾が雄たけびを上げ、周囲の黒いオーラを揺らめかせながら目を見開く。
その瞳は紅に輝き、銀髪の青年が重なって見えた。
その後ろ姿に見覚えのあったメイは、息を呑み驚愕に目を見開く。
「シン、お兄様?」
薄く黒いオーラは徐々に周囲へ広がっていき、柊吾が強く念じるとその周囲で留まった。それは燃え盛る業火のような存在感で揺らめく。
柊吾はヒュドラへ向け、右手を突き出した。
すると、背に装着してあった六本の小型レーザー砲がひとりでに外れ、宙へ浮く。それらは柊吾の元を離れてからも薄黒いオーラを纏い、滞空しながら主の命を待っていた。
「いけぇぇぇぇぇっ!!」
柊吾の叫びと共に、再戦の火蓋は切って落とされた。
六本の小型レーザー砲は風を切り、一直線にヒュドラたちの元へ。
「っ!」
呆けていたメイは、すぐに自分の役割を思い出す。
(全員攻撃の準備を! タイミングを計ります!)
メイのカウントダウンが始まる。
ハナは、ビームソードのように高熱量を宿したアギトを握りしめ、ヒュドラの攻撃を避けながらも軽々と飛び上がり、目的の一体を見据える。
空中でヒュドラの噛みつきを受け流し、着地すると疾風のように駆け抜ける。
「柊吾くんが見出した最後の機会、決して無駄にはさせない!」
(――3、)
デュラは、主から預かった稲妻迸るブリッツバスターを肩に担ぎ、ヒュドラのブレスを避けながら駆ける。
次は失敗などしない。
地を蹴り、目的の一体へ上空から迫る。
(――2、)
キュベレェは、ブレスの嵐を華麗に避け距離をとると、託されたトライデントアイの狙いを一体のヒュドラへ定めた。
この密林の王として、好き放題暴れた無法者に裁きを下すため。
「今度こそ終わらせる。みんなを苦しみから解放してみせるっ!」
(――1、)
「っ……」
柊吾が苦痛で顔をしかめる。
六体もの魂を同時に操っているため、負担が尋常でない。頭が割れるような痛みを訴える。だがそれでも、無理を通す。
そして柊吾の操る六本の小型レーザー砲はそれぞれ、カクカクと独自の軌道を辿りながらも、ヒュドラたちの額を捉える。
砲門には既に光が収束し――
(――今ですっ!)
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
今度こそ、九つのコアは同時に砕けた。
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