最終章 転生の代償
飛来する熱量
激戦が繰り広げられている、廃墟と化した村。
フリージアとカムラの援軍によって体勢を立て直した第二陣は、ダンタリオンが生み出すクラスBモンスターたちを相手に奮闘していた。
キュベレェは飛翔し、魔物の相手をしながらも隙を見てダンタリオンの顔面に光の矢を打ち込む。
ヒュドラの頭部よりも遥かに硬い顔面は、キルゲルトが与えた傷を中心に確実にダメージを与えているが、まだまだコアまで届きそうにない。
「はぁっ!」
ハナが華麗に宙を舞い、飛び掛かって来たコカトリスの翼を斬り落とす。そのまま落下した敵の背に着地し、胴部を貫いてトドメを刺す。
ここまで何体ものクラスBモンスターを倒したハナだったが、そろそろ体力的にも限界だった。
「大丈夫、まだ戦える……」
ハナは気を落ち着かせるように、腰に括り付けていたテオの仮面に触れる。「テオがついている」、そう思うとハナの心には自然と闘志が湧き上がった。
そのとき、背後の隙のつかれデビルテングに殺されかけている騎士が目に入った。
すぐさま腰の小太刀を投げ、羽に突き刺す。
「――恩に着る!」
横から迫っていたクロロは礼を言うと、羽を負傷し地面に膝を着いたデビルテングの首を断ち、その羽に突き刺さっていた小太刀を抜く。
そして二刀を駆使し、仲間に襲い掛かるマンティコアに斬りかかった。
「――なにか来る?」
空気の流れの変化を機敏に察知し、眉を寄せて呟いたのはキュベレェだった。
彼女は今、ダンタリオンの顔面へ弓を引いていたが、静止する。
その態勢のまま感覚を研ぎ澄ましていると――
「――後ろ!?」
すぐさま下降した。
遥か後方から空間の揺れる音が伝搬し、急速に近づいていたのだ。
「みなさん! 来ま――」
味方へ警告しようとしたキュベレェの声は、轟音にかき消される。
それは時空が震えるかのような、稲妻が迸るような、耳をつんざく反響音。
同時に、電撃纏う弾丸が眩い光の軌跡を描いて飛来する。
「っ!?」
一瞬の出来事だった。
飛来した弾丸はダンタリオンの顔面に着弾した後、さらに内部から輝き出し、その後頭部を高熱量の光線が貫いた。
それこそ、
まず、二極の加速用レールの間で発生した電磁力によって、間に挟んだ弾丸は加速し射出される。その弾丸の中身はイービルアイの収束器官を圧縮加工したもので、発射の衝撃による刺激で光を収束始める。そして着弾した部分で高熱量を発散し、対象を焼き貫くというものだった。
ようやく耳鳴りが止み、クロロが上を見上げると、ダンタリオンの顔にはぽっかりと穴が開いていた。
「や、やったのか……」
目の前の光景が信じられず、唖然と呟く。
ダンタリオンは次第にグラグラと体を揺らし始める。
「皆、下がれ! 奴が倒れるぞ!」
ゲンリュウの声で我に返った戦士たちは慌てて逃げ出す。
ダンタリオンは地獄の底から響くような、低くくぐもった声を発し、体が徐々に溶けていく。その声は、まさしく憎悪に彩られた怨恨の叫びだった。
本体が崩れると共に、原液は大きな波となって溢れ出す。魔物を生成する力を失ったためか、原液は気化することなく村中に広がり、退避して固まる戦士たちへも押し寄せる。
「ゲ、ゲンリュウ総隊長!」
「ちぃ……」
ゲンリュウは歯を食いしばり顔に皺を寄せる。
押し寄せる凶霧の原液は、まるで津波のように高く立ち上がっている。だが防ぐ手段がない。
ようやくダンタリオンが倒れたというのに、このままでは全員飲み込まれて死んでしまう。
そのとき、キュベレェが全員の前に降り立ち告げた。
「みなさん、私の後ろに固まってください! 光の障壁を張ります」
そう言って両手を前方へ突き出し、光を溜めていく。
「キュベレェ殿……感謝します。総員、キュベレェ王の後ろにつけ!」
ゲンリュウは礼を言うと、隊員たちへ命じた。
すぐにクロロたちもキュベレェの後ろに集まる。
すると、光の膜がキュベレェの手から背後へ広がり、全員をドーム状に包み込んだ。
「ぐっ、ぅぅぅぅぅ」
どす黒い粘液の波が生き物を飲み込まんと襲い掛かる。
壮絶な光景だった。
障壁内にいたクロロの視界は、真黒に染まり、心に恐怖が襲い掛かる。
あまりの迫力に、自分はもう飲み込まれてしまったのではないかという錯覚すらしてしまう。
だが次第に波の勢いは衰え、やがて激流が止まる。
静寂が訪れた。
キュベレェは神妙な表情で息を吐くと、障壁を解いた。
「終わった、んだ……」
ハナが茫然と呟く。
もうダンタリオンの姿はどこにもなく、原液によって生まれた魔物たちも同様に消えていた。
リンは安堵のためか、その場にガクリと膝を着く。
未だに足の震えるアインの肩に、クロロが手を置く。彼の手もまた震えていた。
そしてゲンリュウが声高らかに告げた。
「皆、よく持ちこたえてくれた! 今、カムラの砲撃によってダンタリオンは倒れた。我々の勝利だ!」
「「「うおぉぉぉぉぉっ!!」」」
盛大な歓声が上がり、激戦は幕を閉じたのだった。
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