海の汚染源
カムラに戻った柊吾は、洞窟で採れた鉱石類をアイテムボックスに収納すると、持ち帰った手記に軽く目を通した。
一冊目には載っていない魔物のことから、一冊目に載っていた魔物の詳細まで新たに書き込んである。本の半分以降は白紙になっているが、説明の途中で途切れているため、フェミリアはここで魔物化したのだと考えられる。もしかすると。これでもまだ書き足りなかったのかもしれない。
柊吾はその中に海の魔物を探し、ようやく見つけた。
「とんだバケモノだな……」
その正体を知った柊吾は、絶望にも似た神妙な表情で深くため息を吐いた。気になったのか、彼の後ろからデュラも覗き込んでいる。
じっくり読んでみると、その魔物の居場所まで記してあり、居ても立ってもいられなくなった柊吾は、すぐにシモンの元へ向かう準備を始める。
アンドロマリウスとの戦いで
「――とうとうここまで来たか!」
柊吾から二冊目の手記を渡され、海の魔物の項を読んだシモンの声が弾んだ。喜々として今にも踊り出しそうなぐらい、爛々と目が輝いている。
柊吾も家を出るまでは同じ気分だったが、少し歩いて冷静になると、たとえ正体や居場所を知ったところで、討伐することの困難さが露呈したに過ぎず、憂鬱な気分になったのだった。
この世界の海の全てを汚染する強大な敵だということだ。
~~海の汚染源『ユミルクラーケン』~~
全長100メートル以上の巨体で、上半身は巨人、下半身は無数の触手が生えた
普段の巨人は大陸の最南端で眠り、触手たちが意志を持って好き勝手に動いている。
「とんでもないバケモノだろ?」
「ああ。こりゃぁ、クラスSは間違いなし。どうやって倒すんだ?」
シモンは呑気に首を傾げている。
柊吾は思わず「は?」と素っ頓狂な声を上げてしまいそうだった。この男、なぜここまで能天気な表情を見せていられるのか。
これも柊吾の今までの実績が築いてきた絶対の信頼なのだと言うのなら、今すぐにでも投げ出したい気分だった。
柊吾がどんよりとした表情で肩を落とし、深くため息を吐く。そんな心情を理解しているのか、シモンはポンポンと軽く柊吾の肩を叩いた。
「大丈夫、君は必ず倒すさ。親友である俺が保証する」
なんの気休めにもならない。
柊吾がゾンビのように唸りながら顔を上げると、シモンが晴れやかな表情で親指を立てていた。
少し頭にきた柊吾は、意趣返しとばかりに口の端を吊り上げる。
「……かなりの重労働になるぞ」
「へ?」
「こんなバケモノを倒そうって言うんだ。そりゃ人は必要だろうし、その分の装備が必要だ。それにまたいつカムラを襲うかも分からない。求められる量とスピードはこれまでの比じゃないぞ?」
つまり、装備の手入れのことを言っているのだ。
シモンは、まるで悪魔を見たかのように顔面蒼白にしながら後ずさる。だらだらと冷や汗を流し、目を泳がせながら声を震わせる。
「ぼ、僕ら友達だろ?」
「ああ。だから助けてくれよ、親友」
そう言って柊吾は、無慈悲にも満面の笑みを浮かべた。
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