デュラの実力

 デュラの活躍は目覚ましかった。

 柊吾のように空は飛べないものの脚力が凄まじく、フィールドを縦横無尽に駆け抜け標的を寸分違わず穿ち抜く。柊吾が地上でアイテムを使用したりして留まったときには、巨大な白銀の盾『アダマンシェル』で主をきっちり守り抜く。おまけに、毒や麻痺などの状態異常にもかからないので、あまりにも壊れ性能な参入メンバーである。

 あまりに簡単にクエストが進むので、「こんなんゲームだったら、バランス崩壊で叩かれまくるわ……」と柊吾は苦笑する。

 難点といえば、喋れないことと装備の維持費が高いことだ。人の言葉は通じる上に、柊吾の言うことには従順なのでそちらは問題ないが、維持費についてはジャックオーランタンの自爆を食らったり、イービルアイのレーザーを食らったりすると修理代と素材集めがばかにならない。とはいえ、特に生活に支障が出ないよう、柊吾は上手く立ち回っていた。


 その日も二人は廃墟と化した村で魔物狩りをしていた。クエストの内容は『カトブレパスの毛皮×3、イービルアイの翼×2、サイクロプスの目玉×2』といったもので、とある商人の依頼だった。前者の素材は建物の補強や装備の生産に使い、後者はミネラルたっぷりの食材として使うようだ。柊吾は想像しただけで吐き気がした。


「――ほいっ、これ持って」


 柊吾は重量過多でだらしなく伸びた素材収集用ゴム袋をデュラに渡す。まるで荷物持ちのような扱いだが、デュラは特に嫌そうな素振りを見せることなく、受け取ったゴム袋を腰に括り付ける。

 現在、イービルアイの翼とカトブレパスの毛皮は目的の数が集まった。あとはサイクロプスの目玉だけだ。


「さっさと手に入れて帰ろう」


 柊吾はそう言うと村の広場へ向かって歩く。サイクロプスはカトブレパスやイービルアイに比べ、個体数は多くないが建物の密集している地区を回遊する特性がある。

 デュラは無言で柊吾の後を追った。


 二人が周囲を警戒しながら村の中心部を歩いていると、標的を見つけた。柊吾は倒壊した宿屋の岩壁に肩をピッタリと付け、角の先にいるサイクロプスを観察する。

 全長四メートルはある巨大な体躯で、腰にボロボロの布を纏った筋骨隆々の鬼だ。頭部には大きな一つ目と一本の角があり、口にはギザギザの獰猛な牙。手には棍棒を持ち悠々と振り回して攻撃する。クラスCモンスターであり、目玉は栄養価の高い食材に、角は薬に使われる。

 柊吾がじっくりと奇襲のタイミングを見計らっていると、もう一体の姿が見えた。以前であれば、二体同時の相手は極力避けているところだが、今はデュラがいる。柊吾は心強く思いながら、デュラに突撃の合図を送るべく背後へ顔を向けた。

 デュラは柊吾へ背を向けていた。戦闘前の謎の行動に困惑する柊吾だったが、デュラの視線の先を辿り状況を察する。数メートル離れた上空からイービルアイ一体が滑空していたのだ。柊吾たちの元へ向かって。


「キィィィッ!」


 イービルアイは二人に狙いを定め、既にレーザーの収束をほぼ終えている。デュラは即座に柊吾をかばうよう目の前に立つと、アダマンシェルを頭上に構えた。直後、イービルアイのレーザーが照射され光熱が柊吾たちを襲う。


 ――ジュゥゥゥゥゥンッ!


 デュラの盾に守られているものの、背後の柊吾にも熱気が伝わって来た。

 やがて、レーザーの照射が終わると、柊吾は間髪入れずブーツの噴射と共に地を蹴り、デュラの頭上へ跳んだ。そのままデュラの肩に乗ると、


「俺をイービルアイへ投げろ!」


 デュラはすぐに盾を水平に肩の前へ差し出す。柊吾が盾の表面に移ったのを確認すると、デュラは盾を頭上へ勢いよく振るった。

 柊吾は宙へ投げ出され、イービルアイへと向かう。さらに噴射による加速で急接近しながら背のグレートバスターを掴むと、イービルアイを縦に叩き斬った。

 そのままゆっくり着地すると、イービルアイの死骸も目の前にズドンッと落下する。 

 柊吾がふぅと息を吐きデュラへ振り向くと――


「――オオォォォォォッ!」


 二体のサイクロプスがデュラに迫っていた。今の戦闘で獲物の存在が気付かれたのだ。


「くっ!」


 柊吾は急いで腰バーニアを噴射し、救援に向かう。


 ――ヒュンッ!


 一体目の振り下ろした棍棒がデュラの頭上に迫り、デュラは盾で防御。ゴオォンッという激しい激突音と共に火花が散る。

 一体目の脇から二体目が突進し棍棒を横から薙ぎ払う。デュラは受けていた棍棒を上へと押しのけ、大きく跳び退いた。薙ぎ払われた棍棒は風を暴れさせ宿屋の岩壁を粉砕し砂埃を巻き上げる。


「グゥ?」


 サイクロプスは大きな目をパチクリさせながら、右腕を揺らす。棍棒が壁の中までめり込んで抜けないのだ。

 それを好機と見たデュラが跳ぶ。二体目の腕へとまっすぐ飛来するデュラに、一体目が右手で横から掴もうとするが閃光が走る。血飛沫が上がり、サイクロプスは右手を押さえて野獣のように叫んだ。


「グアァァァァァ!」


 デュラが空中でランスを振り抜き、その鋭い穂先で掴もうとしたサイクロプスの指を切断したのだ。デュラはそのまま、未だ抜けない棍棒を掴んでいる二体目の手首に乗る。すぐさまサイクロプスの右腕の上を駆け上がった。もちろんサイクロプスもそのまま放置するわけもなく、右腕を振り上げるが既にデュラは跳んでいた。ランスの穂先をサイクロプスの胸へ向けまっすぐに。


「グゥゥゥッ!」


 深々と心臓を貫かれたサイクロプスは短い悲鳴を上げ、苦しそうに手を暴れさせ宙をもがきながら仰向けに倒れた。あえて目玉を無傷のまま止めを刺したことは、デュラが手練れであるなによりの証拠だ。

 デュラは油断なくすぐさまランスを引き抜くと、よだれをまき散らしながら走り寄って来ていたもう一体に顔を向ける。

 しかし、ランスを向ける必要はなかった。


「――はぁっ!!」


 掛け声と共にサイクロプスの首が飛ぶ。

 サイクロプスの体はは勢いよく倒れ込み、その背後に柊吾が着地する。

 柊吾は辺りを見回し、敵がいないことを確認すると息を整えた。


「さすがはデュラだ。それじゃあ、素材を回収してさっさと帰るか」


 デュラは頷き、サイクロプスの頭部に穂先を突き立てた。

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