いざ教会へ
「――まったく、君という奴は……」
ハナと別れた柊吾たちはシモンの鍛冶屋に来ていた。
来て早々シモンに妬みを孕んだ目を向けられるが、柊吾にはその理由に心当たりがない。
「どうしたんだシモン」
「どうしたもこうしたもあるか。僕は聞いたんだぞ! 君が美人剣士とクエストに出てイチャイチャしてたって!」
シモンが怒りに眉をヒクつかせ、興奮したように叫ぶ。柊吾は仰天し慌てて反論した。
「イ、イチャイチャなんてしてないわ! 魔物を狩ってただけだって!」
だがそこでメイがぼそりと呟く。
「してました……」
「ほら、目撃証言だってあるじゃないか!」
「メ、メイ?」
思わぬところから攻撃された柊吾が横を見ると、メイが不服そうに頬を膨らませていた。その頭をデュラがよしよしと撫でている。
シモンがやれやれとため息を吐いた。
「まったく君はいつもいつも……で、唐変朴の柊吾さんはなにしに来たんだ?」
「いや見て分かるだろ。隼の修理を頼みたいんだよ」
「しょうがない。修理費はいつもの三倍でどうだ?」
「分かった。よろし……って増えてるじゃないか!?」
「ははっ、冗談だって」
シモンはいつもの調子で笑うと、デュラとメイにも目を向ける。
「お二人さんは特にないかな?」
「私は大丈夫です」
メイが答え、デュラも頷き意思表示する。
柊吾はアイテム袋に手を突っ込むと、回収してきた謎の鉱石をシモンへ渡した。
「洞窟の奥の方で新しく見つけてきたんだ。良かったらこれを使って防御力を上げてほしい」
「お? へぇ、こんな鉱石があるのかぁ……」
シモンが灰色のそれを一つ手に取り、興味深そうにふむふむと眺め回す。
「硬そうではあるけど、高ランク鉱石と言うほどの性質はなさそうだな……うん、とりあえず分かった。できる限りのことはやってみるよ」
「ありがとう。よろしく頼む」
柊吾はシモンが店の奥から持ってきたグレーの両手両足をひび割れた自分のものと交換する。これはいざというときのためのレンタル品。隼を修理に出すときの代替品で戦闘に耐えられる造りにはなっていないが、日常生活を送るには十分だ。
「ついでにグレートバスターも強化しとくよ」
柊吾はシモンにグレートバスターを渡し、店を出た。
それから数日、珍しく穏やかな日々を過ごす柊吾だったが、先延ばしにしていた問題をメイが掘り起こす。
「お兄様、時は来ました――」
というわけで、メイの働き口を求め、柊吾とメイはカムラの南西にある第一教会に向かっていた。
第一教会はカムラの第三の勢力である教団の本拠地であり、教徒たちを束ねる数名の司祭、白魔法を扱い公務の補助をする神官、そして教団の代表でありカムラの教徒たちの心を一つにまとめた立役者であるシスター『マーヤ』の拠点である。また、周辺には孤児院と診療所が並んでおり、どちらも教団が運営している。
マーヤはシスターという立場上、直接教団の運営に口を出すことはないが、教徒たちの熱狂的な信頼故、民の代表としてバラムやヴィンゴールと直接意見を交わすこともある。司祭単独でこれはできない。
柊吾たちが教会に入ると、奥の教壇で一人の司祭が聖書を音読していた。その手前の会衆席に十数人の教徒たちが座り熱心に聞いている。
柊吾たちが入ってすぐのところで立ち止まっていると、脇に立っていた助祭の男が近づいて来る。白の祭服で手には聖書を持ち、柔和な微笑みを浮かべながら柊吾に話しかける。
「こんにちは、今日はどうされましたか?」
「こんにちは。シスター『マーヤ』にお話があり参りました。加治柊吾と申します。こちらはメイと言います。事前に許可はとりました」
助祭は二人の恰好を今一度確認すると、納得したように破顔した。
「あなた方がそうでしたか。マーヤ様からお聞きしております。では、こちらへどうぞ」
柊吾は助祭に案内され、会衆席の横を通って奥にあるシスターマーヤの部屋に足を踏み入れた。
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