滅亡世界の魔装設計士 ～五体不満足で転生した設計士は、魔装を設計し最強へと成り上がる～

般若

「…………はっ！」

　柊吾の命尽きるその寸前、なにかが宙を切り、柊吾を押し潰さんとしていた握力が緩まった。

　柊吾は突然圧迫感から解放され、浮遊感に襲われる。朦朧とするの意識の中で、体は重力に任せ落ちていく。受け身も取れず、地面に全身を叩きつけられようとしていたその時、空中で何者かに肩を抱かれ、無事地面に着地した。

　柊吾の霞む視界で捉えたのは、顔に般若の仮面を装着したハナだった。仮面は怒りともとれる獰猛で禍々しい熱気を内包しており、全身からも普段のハナにはない嚇怒のオーラを纏っていた。

　ハナは柊吾を地面に寝かせると、背後へ振り向く。ミノグランデが失った左手首を振り回しながら叫んでいた。ハナは今の一瞬で柊吾を掴んでいた手首を切り落としたのだ。

　ミノグランデは怒りに目を光らせよだれを垂らし、ハナへと斧を振り下ろす。

（危ない！）

　柊吾が心の中で叫ぶが、ハナはその場から動かず――

　――ガキィンッ！

　斧を横へと弾いた。

　その両手に握られていたのは、背に納めていたはずの太刀だった。刃渡りは二メートルほどにもおよび、たいまつに反射して輝く刃は鋭く、重量感を醸し出している。

　ハナはゆっくり腰を落とすと、敵へと一直線に駆け出した。そのスピードは先ほどまでの比ではない。瞬く間にミノグランデに迫る。

　ミノグランデはハナへ蹴りを放つがハナの姿は一瞬で消え、その膝に音もなく着地した。

　そこからさらに跳び、ミノグランデの右腕に着地する。そして牛の顔を捉えると――

「――はっ！！」

　両足で跳び、ミノグランデの両目に神速の刺突を繰り出す。

「ガアァァァァァッ！」

　視力を失ったミノグランデは斧を手から離し、痛そうに目を押さえて絶叫を上げる。

　ハナは片方の手で小太刀を抜くと、ミノグランデの胸に深く突き刺し、そこを支点に張り付く。

　泣き叫び無意味に暴れまわるミノグランデ。ハナはその動きに生まれる一瞬の隙を見出し、敵の胸を蹴って上空に飛び上がる。

「――はあぁぁぁぁぁっ！」

　憤怒の叫びと共に振り下ろされた一撃は、ミノグランデを頭から真っ二つに叩き斬った。

　ミノグランデは最後に断末魔の悲鳴を上げると、仰向けに倒れ部屋中に地響きを伝播させる。

「柊吾くん！」

　ハナが仮面を上へとズラし柊吾に駆け寄る。そのときには雰囲気も普段の彼女に戻っていた。柊吾はのっそりと体を起こし、無理やり笑みを作った。

「ありがとうハナ。助かったよ」

「いや君が無事ならいいんだ」

　ハナはホッと胸を撫で下ろす。人の心配をしているハナも額からは血が垂れている。

「お兄様！　ハナさん！　ご無事ですか！？」

　柊吾の背後からデュラとメイも駆け寄って来る。二人も無事そうだったので安心した。

　隼は装甲のいたる所がひび割れており、活動限界を感じながらも柊吾は立ち上がる。

「それにしても、ハナのさっきの力は一体……」

「これのことだね」

　ハナは神妙な面持ちになって頭の般若面に手を乗せる。そして「隠しきれないか……」とため息を吐くと、ゆっくり語り始めた。

「私はね、実は半魔人なんだ」

　柊吾は目を見開く。しかし先ほどの身体能力はそうでないと説明がつかない。

「半分は人間、もう半分は鬼。この仮面は、魔族としての力を抑えるために昔……凶霧が発生するよりも前に作ってもらった。もちろん、目的は人として生きていくため。でも、今となってはあまり意味がないかな」

　ハナは悲しそうに自虐の笑みを浮かべる。

　柊吾はその心情を察する。人間族と平和に暮らすことを夢見ていた少女。しかし、鬼の力が必要となる世界になってしまった。

　柊吾はハナの目をまっすぐ見据える。

「意味がないなってことはないんじゃないかな？」

「え？」

「俺は、人として生きるハナも、鬼として戦うハナも必要だと思う。俺たちは君が強いから一緒に戦ったんじゃない。人として……ハンターとしての魅力があったから一緒に戦いって思ったんだ。確かにクラスＢと一緒に戦うことに憧れを抱いてた。でも今分かったんだ。君だから一緒に戦いたいって思ったことが。だから、人としての生き方も、鬼としての戦いも、どちらも同じぐらい大事な意味を持ってるんだよ。だってどっちもハナだろ？」

「柊吾くん……」

　ハナは感激したように目を潤ませている。

　柊吾の背後で「まったくお兄様ってば……」と、メイが小さく呟いていたが、よくは聞き取れなかった。

　ハナに熱っぽく見つめられ、急に気恥ずかしくなった柊吾は赤くなりながらそっぽを向いた。

「そ、それじゃあ、素材を回収して先に行くか」

「うん……ありがとう、柊吾くん」

　柊吾は聞こえないふりをして歩き出した。

　ミノグランデの素材を回収し、奥に進んでいった柊吾たち。柊吾の予想通り、奥には他のルートでは採取できない鉱石の採れる鉱脈があった。

　柊吾、メイ、デュラは袋一杯に謎の鉱石を詰め込む。他のものと違い、鉱石特有の光沢はないものの、硬度はあったので隼の修理に使えそうだった。

　洞窟の最奥までルート開拓が終わると、四人は転石まで引き返しカムラへ戻った。