領民の団結
『皆、聞こえているだろうか。ヴィンゴールだ。
突然のことで驚かせてしまって申し訳ない。
だがどうか聞いてくれ。
これから話すことは、無能な領主のたわごとではなく、名もなき一人のカムラ領民の懇願だ。
既にご存知の通り、この町の近くに恐ろしいバケモノが現れた。
それはこのカムラを滅ぼさんと、まっすぐに向かって来ている
そのバケモノは、以前海から襲撃してきたユミルクラーケンと同等かそれ以上の強大さだ。
あれの恐ろしさを目の当たりにした者には分かるだろう。あまりに絶望的な状況だということが。
恥ずかしながら、私は恐怖に震えた。
皆も同じ気持ちだと思うと胸が苦しい。
だがそれを今、命を賭してでも止めようと、戦っている者たちがいる。
そう、あなた方の愛する者たちだ。
このカムラが誇る、勇敢な戦士たちだ。
彼らは今、このカムラを守るため、愛するあなた方を守るため、命をなげうって必死に戦い続けている。
どんなに挫けそうになっても、どんなに苦しくても、膝を折ることなく、勇猛果敢にバケモノへ立ち向かっているのだ。
なぜそんなことができるのか?
彼らの心に、愛する者たちを守りたいという強い想いがあるからだ。
家族、親友、恋人、ただの顔見知りであってもいい。
皆、彼らのことを誇りに思ってほしい。
そんな彼らに、私たちは報いることはできないのか? ただ守ってもらうしかできないのか?
それは
私たちでも、戦場で戦う彼らを助けることができる。
バケモノを倒し、カムラを救うことができるのは、新兵器だけ。
だがそれには、大量の電気が必要なのだ。
もし、このカムラと愛する者たちを守りたいという意志があるのなら、一度外を見てほしい。
白い糸が張り巡らされているはずだ。
その先に置いてある杖で、魔力を……仲間を助けるための力を送ってくれ。
今、彼らと共に、この愛するカムラを守るには、カムラ領民全員が団結するしかないのだ。
皆、力を貸してくれ。
カムラを愛する一人の男として、よろしく頼む――』
ヴィンゴールが語り終えると、高台は静寂に包まれた。
作業員たちも立ち尽くしている。
領主の熱い想いに感じ入っていたのだ。
それからすぐに、大容量バッテリーから各方面へ伸びていた糸が、次々に輝き出す。
「下がれ! 感電するぞ!」
カムラ中から集まった魔力は雷として熱を持ち、急速にバッテリーを充電していく。
「……こんなに嬉しいことがあるとはな」
ヴィンゴールは感極まり、涙を流していた。
カムラ領民の想いが輝いて繋がり、一つに集まっていくさまは圧巻だ。なにより、愛する者を助けたいという意志は、気高く美しいもの。
「おぉぉぉ……」
「奇跡だ」
「お前ら! 呆けてる場合じゃねぇぞ! すぐにでも発射できるように最終調整を済ませろ!」
「「「はいっ!!」」」
ファランが一喝し、技師たちはレーザーカノンの整備を進めていく。
シモンは気を緩めることなく、険しい表情で、ファランから渡された試験記録に目を通していた。
すぐに充電は完了した。
大容量バッテリーを覆う黒い筐体はジジジという高圧特有の音を立て、今にも爆発しそうなほど熱を発している。
「ようやくここまで来たのか」
ヴィンゴールがしみじみと呟く。
ここまで時間がかかってしまったが、第二陣が全滅していないことを祈るばかりだ。
整備班の最終確認は終わり、全員が下に降りて砲台を見上げ、発射の合図を待っている。
しかし発射直前になって、シモンの姿がないことに柊吾は気付いた。
一抹の不安を覚え、急いで周囲を見回して駆け回り、シモンの姿を探す。だが高台を一周しても見つからない。
ヴィンゴールに発射の合図を頼み、後ろへ下がったファランへ駆け寄った。
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