柊吾とハナ
「――柊吾くん? 夜遅くにユリさんたちとなにしてたの?」
そこにいたのはハナ。
バッチリ見られていた。
柊吾はすぐにユリたちが去った理由を悟る。なんとしたたかな女性たちなのか……
なにも悪いことはしていないというのに、柊吾は冷や汗をかき、口を濁した。
「えっと……討伐隊の人たちと飲んでたんだ。その中にユリさんたちがいただけだよ」
「ふ~ん?」
ハナは疑うような半眼で柊吾の目を見てくる。
柊吾は慌てて話を逸らした。
「そういうハナは、こんな時間に外でなにをしてたの?」
「私はただの散歩だよ。カムラの雰囲気が変わってから、よく夜は歩いてるの。西の方から歩いて来たら、ちょうど柊吾くんたちを見かけてね」
「なるほど、それでか」
「うん。後は住宅街まで引き返すだけだから、家まで送って行ってあげるよ」
「え? い、いや、俺に合わせる必要は……」
柊吾は少し頬を引きつらせた。
酔っぱらってることを自覚しているため、醜態をさらすことを避けたかったのだ。
ユリ、ユラ、ユナと別れてようやく気を抜けたと思ったらこれだ。柊吾は運が良いのか悪いのか……
どうしようかと柊吾が頭を悩ませていると、足元がふらつき前のめりに倒れそうになってしまう。
「お、おっと」
「もぉ、なにやってるの?」
真横からハナの声がした。いつの間にか横から支えられていたのだ。
最強の剣士、恐るべし。彼女の足の運びが全く認識できなかった。柊吾が酔っているからということもあるが。
柊吾は顔を逸らして呟く。
「ご、ごめん……」
「別にいいよ。このままじゃ危なっかしいから、ダメと言われても送るからね?」
そう言ってやれやれと笑うと、ハナは手を離した。
柊吾は諦め、自宅へ向かって静かに歩き始めた。
二人は街路灯に照らされた夜道を歩く。
柊吾は空を見上げるが、星一つ見えない。
凶霧が明ければ、この世界でも綺麗な夜空が見えるようになるのだろうか。柊吾はなんとなくに気になった。
柊吾が穏やかな夜の空気に感じ入っていると、ハナが何気なく言った。
「カムラも随分変わったね」
「そうだな。ようやくここまで取り戻せた」
「これも柊吾くんのおかげだね」
「そんなことないさ。俺だけじゃない。カムラの皆が必死に戦ってきたからこそだろう」
それが柊吾の本心だった。
確かに、柊吾が設計した数々の道具はカムラの発展や復興に役立ってきた。だからといってそれが全てだと言うつもりも毛頭ない。結局は、カムラ領民が力を合わせてここまでやってきたおかげだろう。
ハナは急に足を止めた。
「ふふっ。それもそうだね。ほんと、柊吾くんて不思議な人だよ。だから私は……」
「え?」
柊吾もすぐに立ち止まり、ハナへ振り向くと、彼女は頬を緩ませ優しい笑みを浮かべていた。
ハナはその後なにも言わず柊吾を見つめ、二人の間に沈黙が訪れる。
夜風が頬を撫で心地良い。
やがて、ハナは静かに首を横へ振った。
「う、ううん。なんでもないっ」
無理やり吊り上げた頬は、少し赤かった。
ハナはまた歩き出して先を行き、柊吾も彼女に続く。
柊吾はなんだか気恥ずかしくなり話を変えた。
「そういえば、最近の道場はどう? 繁盛してる?」
「あっ、え、えっとね……また人が集まるようになったよ。ハンターの人も騎士の人もいてみんな強くなろうとしてる。それに、まだ小さい子も親御さんと一緒に来て『あなたみたいに強くしてください』って言うの。それが凄く可愛いんだ」
その光景を思い出したのか、ハナがえへへと顔をほころばせる。
「へぇ~結構な人気なんだね」
それからしばらく、二人は楽しそうに話しながらゆっくり夜道を歩く。
やがて住宅街の手前に差し掛かると、背後から野太い声が上がった。
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