柊吾の安堵
「――お!? 柊吾じゃないか! それに紹介所の……」
突然柊吾たちのテーブルの前に現れ、声をかけてきたのはクロロだった。
先ほどまではいなかったはずだが、彼の後ろを見るとキルゲルトやアインたちが席に着くところだった。
今来たところなのだろう。
ユラは質問を遮られたことで一瞬、ムッと眉をしかめるがすぐに営業スマイルを浮かべる。
クロロは四人を見回し、「へぇ~」と感嘆の声を上げた。
「ガードの固い三人娘がそろって男と飲んでるなんて珍しい」
「討伐隊長のクロロさんですね。お仕事お疲れさまです」
ユリは礼儀正しく挨拶し、頭を下げる。ユラとユナも続けて頭を下げた。
柊吾は内心助かったと思って、思わず笑みを作る。
「クロロさんたちも飲みに?」
「ああ。『も』ってことは、柊吾たちもか……なんだ、バラム商会の接待か?」
「いいえ。私たちが柊吾さんとお話したくてお誘いしたんです。あまり適当ことを言わないで頂けると――」
「――さすがは設計士様……」
なにやらユリが不穏な空気を漂わせていると、キルゲルトと他の隊員がクロロの後ろからこちらを覗き込んでいた。キルゲルトはしきりに、「やっぱりモテる男はちげぇ」と言い、アインは「英雄色を好むと言うでしょう」と、あらぬ誤解を生んでいた。
注目されることを嫌がってか、ユリとユラの無言の笑みでクロロを見つめていると、顔を引きつらせたクロロは苦笑しながら後頭部を掻く。
「俺たちはお邪魔みたいだから……」と言ってテーブルへ戻ろうとするクロロを柊吾は必死に引き止めた。
「せ、折角だから一緒に飲もう!」
柊吾は目を潤ませ、もはや懇願に近かった。
看板娘三人に頼まれ、柊吾一人で来たが、綺麗な女性に囲まれるというのは、想像以上に気まずかったのだ。なんだかふわふわとして地に足のついている心地がしなかった。
ユリとユラが口をへの字に曲げて柊吾を見るが、気にしていられない。
それから柊吾は討伐隊に混じり、リラックスして飲むことができたのだった。
「――う~」
酒場を出てクロロたちと別れると、柊吾は酔いでふらつく。
ユリはそんな柊吾を右側から支えた。三女のユナも眠たげに目元をこすり足元がおぼつかないため、ユラに支えられている。
今回は酒豪のアンがいないからと油断していた柊吾だったが、クロロとキルゲルトの絡み酒のせいで麦酒をたくさん飲まされた。おかげで想定以上に酔いが回っている。
落ち着いて帰り道の広場を見ると、背の高い街路灯が夜道を照らし眩しかった。
「……ありがとうございます。でも、もう大丈夫」
柊吾はそう言って微笑むと、ユリから体を離した。
ユリは名残惜しそうに「あっ……」と小さく声を上げたが、しつこく食い下がろうとはしなかった。
ユリは一歩下がると、頭を下げた。
「今日はお付き合い頂きありがとうございました。私たちは少し夜風に当たっていきますので、どうかお気をつけてお帰りくださいね」
そう言ってユリはユラとユナを連れ、西側の通りへと歩き去って行った。
急に別れを告げられた柊吾は少し不審に思って呆けていたが、自分も帰ろうと前を向く。
すると、目の前に立つ女性を見てすぐに理由を悟った。
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