本当の角

 状況は絶体絶命。

 クエストの目標である赤い雷の原因究明は果たしたが、これの排除などとてもではないが無理だ。麒麟の力は、少なくともベヒーモスやナーガを軽く凌駕している。

 柊吾は忌々しげに奥歯を噛みしめた。


 ――ズザァァァンッ!


 赤い雷光が閃いた次の瞬間、麒麟が柊吾の目の前に現れ角を振り上げていた。


「っ!」


 柊吾は反射的にアイスシールドで受け止めるが、あまりの圧力で結晶の表面がひび割れていく。


「お兄様っ!」


 柊吾の後ろから、メイが横へ飛び出し杖を麒麟へ向ける。レーザーの収束はまだ六割ほどだが、至近距離であれば怯ませる程度は可能だ。

 しかし、なんの予兆もなしにメイの手元で赤い稲妻が弾けた。


「きゃっ!」


 メイは衝撃で尻餅をつき、杖を遠くへ飛ばされてしまう。

 柊吾のアイスシールドもついに砕け、同時に麒麟の角が眩い赤光しゃっこうを放つ。ショックオブチャージャーは瞬時に蓄電量を超え、柊吾は呆気なく吹き飛ばされ地面を転がった。


「ぐぅっ……」


 麒麟はその場で両前足を高く振り上げ、地面に叩きつける。


 ――ズバァァァッ! ズザザザザザァァァァァンッ


 半径十メートルほどの範囲内で雷が連続で降り注いだ。

 柊吾とメイは息を吐く暇もなく、体のいたるところを雷に打ち付けられ、地面に貼りつけられる。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 激しい落雷が振り続ける中、麒麟はゆっくり柊吾へと歩み寄り、その頭上で角を振り上げた。止めを刺すつもりだ。柊吾はかろうじて顔を上げるが、振り下ろされる一撃をただ見つめるしかできなかった。

 そのとき、この落雷に怯まず割って入った騎士がいた。


 ――キイィィィィィンッ!


 デュラがサンダーガードで麒麟の角を受け止めていたのだ。体を幾度雷に打たれてもビクともしない。デュラはカウンターとばかりに、クリアランサーで麒麟の角を突く。


 ――バヂンッ!


 なにかが弾けたような音がした。


「ヒヒィィィンッ!」


 麒麟は急に弱ったような声を上げ、五メートルほど後方へ瞬間移動する。

 同時に降り注いでいた落雷の雨が止んでいた。柊吾がデュラに支えられながら立ち上がり麒麟を見ると、その赤く輝いていた角が欠けていた。否、内側の白い角が見えていたのだ。デュラの一撃で充電部を削ったのだろうか。


「一体どうしたんだ?」


 麒麟の様子が変だった。紅に輝く瞳が点滅しだし、まるでもがき苦しむように麒麟が動き回っていた。まるで理性のせめぎ合いをしているようだ。麒麟が暴れまわる間、落雷は幾度もあったが柊吾を狙ってはこない。

 メイを抱き起した柊吾たちが麒麟から距離をとり、様子を見守っていると、やがて麒麟は岩盤に自身の角を叩きつけた。


「ヒヒィィィィィィィィィィンッ!」


 そして天へと叫ぶと、岩盤の上を駆け上っていく。頂上にたどり着くと、白い雷光で辺り一帯を包み込み、視界が晴れたときには消えていた。


「……助かった、のか?」


 柊吾が気の抜けた声を漏らす。渓谷の落雷はすっかり止み、黒い冷風だけが柊吾たちを襲っていた。赤い落雷の原因究明と排除……つまり、クエストは成功したのだ。

 それを認識すると、柊吾はガクンと膝を落とす。


「お、お兄様っ!?」


 柊吾はメイの必死な叫び声を聞きながら、意識を手放した。

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