赤き雷の霊獣

 先へ進むにつれ、冷風は強くなり落雷は激しくなっていく。あまりに雷が激しすぎて、ここまで一体も魔物に遭遇していない。

 至近距離に幾度となく落ちた雷がとうとう柊吾たちへ降り注ぐ。


「きゃあぁっ!」


 最初に狙われたのはメイだった。

 真っ先にデュラが動き盾でメイの頭上をカバーする。

 柊吾も咄嗟の勘で横へ跳び、落雷の直撃を回避した。


「あ、ありがとうございます」


 メイが上目使いでデュラを見上げ礼を言うと、デュラはコクリと頷いた。

 二人の無事に柊吾が安堵していると、頭上に強烈な気配を感じた。この絶望感を感じさせる覇気は、アンフィスバエナと同じ――


「――っ!」


 柊吾が見上げた先――岩壁の小さな足場に立つ輝く獣がいた。

 それは四足で立ち、碧玉のような翡翠の鱗と眩い白光放つ毛皮に全身覆われた、幻想的な獣だった。顔には雷を纏った長い髭を生やし、頭頂部から天を貫くかのように真っすぐ伸びている鋭利な角は、赤い稲妻を溜めくれないに輝いている。

 柊吾はその幻想的な霊獣に覚えがあった。


「き、麒麟キリン……」


 だが、柊吾の知っているものとは大きく異なる点がある。麒麟は穏やかな性格のはずだが、頭上で柊吾たちを見下ろしているそれは、瞳を憤怒で真っ赤に染めている。また、赤い雷もあれが発生させているもので間違いなさそうだが、麒麟といえば清廉で美しい純白の雷光を放つはず。

 であれば、柊吾にとって倒すべき敵。


「メイ! あれを撃て!」


「は、はい!」


 柊吾の指示を受け、メイがビームアイロッドにレーザーを収束し始める。

麒麟がその熱量に気付き顔を向けた。それと同時にメイの頭上から連続で雷が降り注ぐが、デュラがしっかりと防御。

 そして八割ほどまで収束を終えると雷が止んだ隙を狙って、杖を麒麟へ突き出しレーザーを放つ。白光はまっすぐ麒麟へ伸び――


「――なっ!?」


 麒麟を貫く直前、その姿が赤い雷光の発散と共に消えた。


「バ、バカな!」


 柊吾が周囲を見回していると、


 ――ズギャァァァン!


 突然背後に雷が落ちた。

 柊吾が振り向くと、そこには麒麟が立っていた。

 しかし、メイとデュラに目を向けており柊吾には背を向けている。柊吾は先手必勝とばかりにバーニアを噴かせ急接近し、その背中にブリッツバスターを振り下ろした。


 ――ズバァンッ!


「ぐわぁぁぁっ!」


 麒麟は振り向きもせず後ろ足で柊吾を蹴り飛ばした。その蹴りは赤い稲妻を纏った光線を放ち柊吾を焼いた。ショックオブチャージャーがなければ、全身丸焦げで即死していただろう。

 だがさすがは霊獣。今の一撃だけでショックオブチャージャーの蓄電量が限界に達した。

 メイたちへと優雅に歩いていく麒麟へ向け、柊吾はブリッツバスターを振りかぶる。


「くらえぇぇぇっ!」


 ――ズバァァァァァンッ!


 赤の稲妻を纏った特大の斬撃を放った。

 それは麒麟に見事直撃し大爆発を起こす。

 しかし爆風が止むと、麒麟には傷一つついておらず歩みを止められていなかった。


「そ、そんなバカな!?」


 ブリッツバスターの一撃は完璧だった。一撃必殺、のはずだった。ショックオブチャージャーで全身に溜めた雷をブリッツバスターに流し込み一気に放つ。なに一つミスはしていない。ならば、麒麟の体毛か鱗が雷を無効化する性質を持っているということか。


「くそぉっ!」


 柊吾は気持ちを切り替え、再び麒麟に斬りかかる。今度は蹴られないよう、真横に回り込んで。しかし、大剣の一撃は当たらなかった。

 麒麟が赤い閃光を放ち再び消えたのだ。

 すぐに麒麟は落雷と共に現れる。柊吾はめげずに追いかける。だが肉薄するたび麒麟は瞬間移動のように消えては現れるを繰り返す。


「ひっ……」


 麒麟はジグザグな軌道で移動しながらも、確実にメイたちへ迫っていた。

 麒麟がすぐそこまで迫ると、デュラが脇を締め盾を固定し、ランスを麒麟へ向け突進する。

 麒麟は立ち止まり猛進してくるデュラを冷静に眺めていた。そしてデュラが間合いに入ると、麒麟は自身の角を振り下ろし、ランスを下へ弾く。そのまま反動をつけ、デュラを下からすくい上げるように投げ飛ばした。


「デュラっ!」

「デュラさんっ!」


 デュラは空高く飛ばされ、岩壁に激突し地上へ落下する。

 柊吾は怒りに顔を歪めながらも、その隙にメイの元へと戻った。

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