神殿の守護者

「――あれがゴルゴタウロスか」


 広間の奥、大きな出口の前をゆっくりと歩いているのは、異形のバケモノだった。

 頭は無数の蛇がうじゃうじゃと蠢き、サイクロプスのような筋骨隆々の上半身に、馬の下半身だ。両手で大きな鎌を持っている。

 幸いこちらには背を向けているが、顔には大きな目が一つで、それと目が合うとたちまち石化してしまうという。


「先手必勝だ。デュラ、俺が合図したら突っ込むぞ」


 柊吾がそう言って背の大剣を掴むと、デュラはマントなびかせながら左手を横へ突き出す。同時に首を横へ振った。

 それは柊吾の指示を拒んでいるようで、


「どういうつもりだ?」


 困惑した柊吾が問うも、デュラはランスと盾を構え突然駆け出した。一直線に向かう先はゴルゴタウロス。


「まさかっ!?」


 長いこと共にいた柊吾はすぐに分かった。わざわざ真意を聞くまでもない。

 デュラは自らおとりになって、柊吾たちを先へ行かせるつもりだ。

 魔眼で石化しないからこそ、己の役目をまっとうしようとしているのだろう。


「すまん……デュラ。メイ、ニア、行くぞ!」


 柊吾は広間の右側から円周上に走り、敵との距離を維持しつつ出口へ走った。メイとニアもついてくる。

 ゴルゴタウロスは、真正面から猛然と突進してくるデュラに気付き、大鎌を振り被りながら走り出す。

 デュラはすぐさま盾を構え、振り下ろされた鎌を防御。

 ゴルゴタウロスはすぐさま前足でデュラの盾を蹴ると、方向転換し柊吾の元へ駆け出した。

 

「ちぃっ……」


 柊吾はゴルゴタウロスがこちらへ接近していることに気付き、アイスシールドを展開してその内側から敵の姿を見る。

 すると、敵の後ろでデュラが盾をブーメランの要領で投げていた。

 それはゴルゴタウロスの後ろ足に直撃し、足をもつれさせ転倒させることに成功。

 デュラはすかさず地を蹴り、転倒した敵へ鋭い突きを繰り出す。

 しかしタウロスは、器用にも鎌の胴部で突き出された穂先を受け止める。そのまま横へ受け流し、カウンターで鎌の石突をデュラの胴に叩きつけ、体勢を崩させると前足で蹴り飛ばした。

 デュラは衝撃で地面を勢いよく転がり、距離を離されるが、ここまで時間が稼げれば十分だ。


「ここは任せたぞ、デュラ!」


 柊吾たちは既に出口へ差し掛かっていた。彼らはデュラのことを信じ、先へと進むのだった。

 

 ゴルゴタウロスは、柊吾たちの後ろ姿が遠ざかっていくのを静かに見届けた。もう追いつかないと理解しているのだろう。

 彼らの姿が完全に見えなくなると、背後を振り向く。

 その視線の先では、デュラが立ち上がり、ランスを構えて駆け出していた。



 柊吾たちはデュラを信じ、先へと進んでいく。

 ひび割れた石のアーチをくぐり、暗がりの空洞を進む。凶霧は他のフィールドと違わないというのに、先のゴルゴタウロス以降、一体も魔物と遭遇しなかった。

 だが次第に、圧迫感すら感じるほどのひりつく空気が次第に濃くなっていく。

 柊吾たちは、外が見えるほど倒壊した廊下を駆け抜け、やがて次の広間に辿り着く。


「はぁ……はぁ……」


 柊吾はゆっくりと息を整える。

 何回か深呼吸して、気を落ち着かせると、前方をよく見渡す。

 そして絶句し目を見開いた。

 

「お兄、様……」


 頭上を見上げ、唖然としたメイの呟きが柊吾の耳に届く。

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