封印された記憶

 メイを縛り上げ、デュラを壁に押し付けている鵺は柊吾へ目を向けた。


「貴様、何者だ? 今まで食ってきた人間とは違う味をしている」


 柊吾はうつ伏せになり激痛に顔を歪めながら喘ぐように答える。


「俺は……ただの、人間だ……」


「そうか。なぜ古い記憶が封印されているのか知らないが、もしかすると面白いことが分かるかもしれない……だが、他はいらん」


 鵺は、壁に押し付けられ無様にもがいているデュラへ目を向けると、再び漆黒の腕を突き出した。


「や、めろ……」


「案ずるな。あの少女同様、もう一人も今から殺してやる。その後に貴様も食われるのだから文句はあるまい」


 鵺が厳かに告げると左腕の目玉が一斉に目を見開く。そしてそれぞれが光を収束し始め、眩い白光が空間を塗りつぶす。

 だが鵺は気付いていなかった。柊吾の全身に雷が帯電していることに……いや、気付いているのかもしれないが、とるに足らないことだと無視しているのかもしれない。

 ほんの僅かな充填時間。それだけ与えられれば十分だ。


 ――バュゥゥゥゥゥンッ!


 柊吾の左腕が唸り勢いよく飛び出す。まっすぐに進みブリッツバスターを掴んだ。


「無駄なあがきだ」


(それはどうかな?)


 柊吾は人知れず不敵な笑みを浮かべ、全身に蓄積した雷を左腕の糸を通しブリッツバスターに流し込む。

 そして、


「うおぉぉぉぉぉっ!」


 ――ズバァァァァァァァァァァンッ!


 雷鳴を響かせながら、翠玉すいぎょくに輝く斬撃がブリッツバスターから放たれる。

 鵺は咄嗟に身構えるが狙いはその左腕と無数の蛇だった。その全てを一撃の元に切断する。


「なに?」


 光が止んだときには鵺の目の前には無数の蛇と左腕が落ちていた。

 束縛から開放されたデュラがすぐさまランスの穂先を鵺へ向ける。


「――退いてください」


 さらに鵺の側方からメイが杖に光を収束させながら忠告した。

 鵺は初めて驚きの表情を見せる。


「なぜ猛毒を打ち込んだにも関わらず動ける?」


「教える義理はない、だろ?」


 柊吾が痛みを我慢しながら顔を上げ、意趣返しとばかりに不敵な笑みを見せた。

 鵺は目線を下げ逡巡した後、


「いいだろう。次に会うときは記憶を取り戻しておけ。今度こそ食ってやる」


 そう告げて妖刀を外套の内側へ引っ込め、入口とはまた別の扉から去って行った。

 鵺の気配が遠ざかって行くのを確認したメイとデュラは、急いで柊吾へ駆け寄った。


「お兄様! しっかりしてください!」


「はははっ、今回はちょっと無茶しすぎたね」


 柊吾が力なく笑う。メイはアイテムポーチから他のアイテムがこぼれおちるのも構わずポーションを引っ張り出し、柊吾に飲ませた。

 痛みが和らぎ表情を緩ませた柊吾は深いため息を吐く。


「ありがとう。メイは大丈夫なの? 毒の影響はない?」


 アンデットのメイが毒ごときで死なないことぐらいよく分かっていたが、悪影響はないかと心配だった。


「毒によるダメージはないですが、後で体から毒を吸いださないといけません。それが原因で体が腐っては元も子もないので」


「それは大変だ。もし一人では厳しいならハナに手伝ってもらえるよう頼んでみるよ」


「大丈夫ですよ。お兄様はご自分の心配だけなさってください」


 デュラがメイに賛同するよう首を縦に振ると、柊吾の左腕をしっかり本体に嵌め、肩を貸して起こした。


(いつもこんなのばっかだな)


 柊吾は苦笑し鵺の隠れ家で役に立ちそうなものだけ、回収するとカムラへ戻った。

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