合成魔神と転生者、最後の激突

「――ぐっ! うぅぅぅぅぅっ!」


 握った右腕から走る強烈な衝撃。

 神力はやはり、拒絶するような反応を示した。

 聖なる輝きによる高熱が隼の装甲を焼き、時空を歪ませるかのような衝撃が装甲を圧迫しヒビを作る。

 柊吾の全身は神力で焼かれそうになるが、身に纏った凶霧の怨恨の呪いをぶつけて浸食を抑える。

 気を失いそうなほどの激痛だが、柊吾はグングニルを握りしめ、切っ先を鵺へ向けた。

 

「これでっ! 最後だぁぁぁぁぁっ!」 


 全速力でバーニアを噴射し、まっすぐに鵺へ突貫をしかける。

 柊吾は狙いを逸らすまいと鵺をしっかり見据え、槍を握る拳に力を込める。

 柊吾の接近に気付いた鵺は立ち上がった。右翼と腕の再生はまだ途中で、ウネウネと漆黒の体液を滴らせた異形の塊が蠢いている。


「ふんっ」


 鵺は不敵な笑みを見せると、右腕を横へ払い外套の内側が盛り上がる。そして全身から全てを解き放った。

 蛇、サソリの尾、悪魔の腕、青白い腕、今まで喰らってきた全てをぶつけんと柊吾の真正面から襲いかかる。


『皆、準備はよいな?』


 柊吾の右上空に位置したゴースト――キジダルが問う。


『もちろんです!』


『英雄のためならなんだって』


『やってやる!』


 グレン、キルゲルト、アンが活気に満ちた声を上げて柊吾の左右に並んで飛ぶ。


『親友に触れさせたりはしない』


『主に勝利を捧げる!』


 シモンとデュラが柊吾を導くかのように、その頭上に構えた。

 次の瞬間、六機のゴーストから一斉にレーザーが降り注ぎ、柊吾へ迫っていた異形の魔の手を次々に焼き払われていく。

 

(ありがとうっ、みんな!!)


 鵺の攻撃は止み、柊吾の行く手を阻むものはなにもない。

 だが鵺は、余裕そうな表情を浮かべていた。

 突き出された左腕には、眩い光が収束している。


「貴様を喰らえないのは残念だが、ここで終わらせてやる」


 直後、最大出力の極大レーザーが放たれた。

 しかし柊吾は止まれない。

 レーザーはまっすぐにグングニルとぶつかる。


「ぐっ、ぅぅぅぅぅっ!」


 高熱が全身を襲うが、それでも柊吾は止まらない。

 レーザーを受けたグングニルの穂先は、熱量に溶けるようなことはなく、むしろ光を左右へ拡散させながら進んでいく。

 そしてレーザーの照射が終わり、柊吾は加速した。


「なっ!? まさか、それは――」


「――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 グングニルの穂先はそのまま鵺の胸を貫く。


「ぐっ、グヲォォォォォォォォォォッ!!」


 眩い光が鵺の全身を包み、激しく焼いていく。

 神力を前に人工の再生力など意味を成さない。

 柊吾の右腕はとうとう神力に耐え切れず、バキンッと肘から折れた。


「うっ」


 数歩後ずさる。

 やがて光は止み、鵺は黒こげになった体で立ち尽くしていた。

 周囲の黒い霧が少しずつ薄くなっていく。


「やった……」


 後方でメイが小さく呟いた。

 柊吾も今度こそ終わったと思った。

 しかし、黒こげの鵺の内側でドクンッドクンッとなにかが胎動する。


「まさか、まだ……」


 柊吾は息を呑んだ。

 サタンは消滅していたことから、鵺はまだ生きている可能性がある。

 もしかすると、クロノスの神の部分が影響しているのかもしれない。

 次の瞬間――


 ――グギャオォォォォォンッ!!

 

 黒こげの鵺の体を内側から突き破り、顔のない漆黒の魔獣が飛び出す。

 そして身構える柊吾へと襲い掛かった。

 体が思うように動かず、目の前で開かれた巨大な口を唖然と眺める柊吾。

 しかしそこへ光の矢が飛来し、魔獣の顔を横から襲撃した。


「柊吾くん!」

 

 慌てた声に顔を向けると、キュベレェが光の矢をつがえ、ハナが颯爽と駆け出していた。

 ハナは稲妻迸るアギトを握りしめ、黒い体液をまき散らしもがく魔獣へと飛び掛かる。


「はぁっ!」


 魔獣の胴体は綺麗に切断され、黒こげの鵺の体はその場にどさりと倒れた。

 やがて黒い霧が完全に晴れ空を見上げると、空間の歪みがなくなり地球ももう見えなくなっていた。


「やったっ、やったよみんな……」


 柊吾は頬を緩ませ呟いた。

 涙が止め処なく溢れる。

 凶霧が止んだことで柊吾が纏っていた魂たちはどこかへ消え去り、ゴーストもまた力を失い地面に投げ出されていた。

 柊吾はデュラやシモンたちの名を呼ぶが、返事をすることはなかった――

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