エピローグ

贖罪

 ダンタリオンを倒したことで凶霧の再生が止まり、この世界を歪ませていた魔神クロノスを取り込んだ魔神クロノクルスを倒したことで、長い間大陸を覆っていた凶霧がとうとう晴れた。

 無事……とは言えないほどの被害ではあったが、第二陣は帰還し、ヴィンゴールはメイの力を通して領民へ終戦を告げたのだった。


 それから数日は穏やかな日々が続いた。

 生き残った領民たちは、尊い犠牲となった仲間たちの死を悼んだ。訪れた平和に実感はなく、今はまだ悲しみの方が大きい。

 だがそれでもカムラの人々は、何度も困難を乗り越えてきたそのたくましさを遺憾なく発揮し、少しずつ現実を受け入れて前へ前へと進んでいく。


 柊吾も前へ進もうと決意を固め、ヴィンゴールの元を訪れた。諸悪の根源である地球側の人間の一人として。

 ヴィンゴールは鵺との決戦を見届けていたため、ある程度の事情は察していた。だがそれだけでは情報が不足しているので、柊吾はまず地球のこと、そこでの争いが原因で人々の憎しみが増大し、やがて時空間を歪ませこの大陸に凶霧として降り注いだのだと説明したのだ。

 

「――なんと……」


 ヴィンゴールの横にいた討伐隊参謀が絶句している。

 絨毯の左右には、バラム、ゲンリュウ、総務局長、広報長官が並んでいるが、人が減り寂しくなってしまった。キジダルの後は討伐隊参謀が継ぎ、大隊長の座は未だ空席。カイロスが重傷を負ったため、ヴィンゴールの側近は実力と信用のある騎士に交代で務めさせていた。

 ヴィンゴールが難しい顔で唸る。

 柊吾の説明を聞いただけでは、おそらく理解できていない者もいることだろう。

 それでも柊吾は告げる。


「領主様、この加治柊吾、処罰を受ける覚悟はできております」


 周囲で戸惑いの声が上がった。


「せ、設計士殿!? いったいなにをおっしゃっているのですか!?」


「そうだ! この町を救った英雄に罰など、あるわけが――」


「――静かにしろっ!」


 騒ぎ立てた総務局長とバラムをゲンリュウが黙らせる。

 すると、ヴィンゴールが深いため息を吐いて柊吾の目を見た。


「彼らの言う通りだ。そなたはカムラを救った英雄であろう。罰する理由はない」


「いえ、救うもなにも私が……私の故郷が元凶で、この世界の多くを犠牲にしてしまいました。その罪を背負えるのは、私しかいません。鵺も地球を求めてダンタリオンを動かし、我々に討伐させ、空間を歪ませることで地球への道を作りました。そして、地球の人間である私を利用するためにカムラへ乗り込んだのです」


 語る柊吾の声には熱が灯っていた。

 自分の存在が多くの犠牲を出したのだと思うと、やりきれない。

 ヴィンゴールは柊吾の瞳に宿る意志を感じ取ったのか、眉を寄せため息を吐いた。


「……分かった。そなたに罰を与えよう。しっかりと罪を償うがいい」


「りょ、領主様!?」

「そんな……」

「仕方ないのか……」


「覚悟はできております」


「では柊吾、罰として命じる――このカムラの復興と、大陸に活気を取り戻すため、そなたの持ちうる全ての力を捧げよ」


 思いもよらない言葉に柊吾は顔を上げた。

 ヴィンゴールは片頬がわずかに吊り上がっている。

 情けなどではない。

 カムラのためにその身を捧げろと言っているのだ。

 柊吾はその言葉を胸に刻み、深く頭を下げた。


「この命にかえても――」


 その日より、カムラの本格的な復興作業が始まった。


 大陸の凶霧がなくなったことで、凶悪な魔物たちも姿を消し、資源回収が容易になった。

 ハンターの存在意義が危ぶまれるほどだったが、それも仕方ない。

 おかげでカムラは少しずつ豊かさを取り戻していけるのだから。

 今はカムラの復興で精一杯だが、時が経てば廃墟と化した村や汚染された都市の復興も可能になるだろう。

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