魔眼が捉えし者

 ――メフィストフェレスは、かつて天空に住まう天使だった。

 天空神『ウラノス』から地上を監視する役目を与えられ、遥か昔から地上を傍観し続けていた。そんな面白くない役目に、彼は飽き飽きしていた。

 そんなあるとき、上官にあたる天使長が神々に異を唱え、争いとなったのちに下界へ追放となる。そのとき、メフィストも喜々として彼についていったのだ。

 そのときの天使長が『ルシファー』で、今の魔王『サタン』となる。そしてメフィストも堕天して悪魔となり、サタンと共に下界の支配を目論むのだった。


 凶霧が発生したのは、それからしばらく経ってからのことだった。

 魔神と呼ばれる強者を封印し、魔王サタンが神殿を乗っ取ってこれからというときに、凶霧が下界へ降り注いだ。

その元凶を知ったサタンは、無暗に動くことをせず神殿にこもり、メフィストへある者を監視するようにと命じたのだった。変容し魔眼と化したその目をもって――


「――不味まずいな……悪魔というのは皆こんな味なのか……」


 殺風景で静かな玉座の間に、グチャグチャという咀嚼音が響く。

 そこに一人佇んでいるのは鵺だ。

 メフィストは鵺の生命力を甘く見たが故に敗れさった。彼の記憶や能力はもう鵺のもの。

 メフィストが凶霧によって生まれた魔物でないということには少なからず驚いたが、鵺にとってはどうでも良かった。彼の記憶では、他にも悪魔の仲間はいたようだが、凶霧に飲まれ理性を失った魔物となっていた。サタンと共に下界へ降りて無事でいる悪魔は、『アスモデウス』ぐらいか。

 鵺はメフィストの記憶を探り終えると、一度目を閉じ魔力を瞳に込めて再度見開く。

 瞳には充血したように魔力の線が走り、ここではない景色を映した。


「……あれを喰らえば、全てが分かるのか」

 

 メフィストの魔眼は、この大陸のある者を捉えていた。

 それは今、黒い霧に覆われた砂漠をのっそりと移動している、不気味な黒いローブの影。禍々しい気配を発し、周囲の空間を歪ませている。

 

「待っていろ、『魔神クロノス』」


 時空を操る神。

 メフィストはそう認識していた。天空にいたはずの彼がなぜ下界に落ち、変わり果てた姿となったのか。それはサタンですら分かっていないようだった。

 だから鵺は、凶霧の秘密を解明するという己の存在意義を賭け、それを喰らうべく古城を去るのだった。


 鵺が時空の魔神を喰らおうと動き始めた今、終焉へのカウントダウンが始まる――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る