幕間 魔眼強奪
悪魔の古城
大陸の北、そこには
かつては大陸のほとんどを手中に収めた王が住んでいたが、今では悪魔の根城となっている。
「――邪魔だな」
ボロボロの扉を一太刀で粉砕し、城のホールに侵入したのは『鵺』だった。相変わらず深編の三角笠をかぶって表情が見えず、紺の外套で全身を覆い隠している。
ホールにはミノグランデが一体と、サイクロプスやイービルアイが回遊しており、鵺はそれを見て邪魔だと言ったのだ。
侵入者の存在に遅れて気付いた魔物たちは雄たけびを上げ、一斉に襲いかかる。
まずはサイクロプスの棍棒が振り下ろされる。
鵺は地を蹴り跳んで避けると、サイクロプスの肩へ乗った。
――ヒュンッ!
いつの間にか刀の握られていた右手を横へ薙ぐと、いとも簡単に魔物の首が飛ぶ。
体が倒れる前に鵺は跳び、目に光を収束させていたイービルアイの目前へ。
そして外套の内側から、顔のない漆黒でドロドロの魔獣が飛び出す。その巨大な口を広げ、レーザーが放たれる前にイービルアイを丸呑みにした。
空中でグチャグチャと魔獣の咀嚼音が響く中、左右から別の個体のレーザーが放たれた。
二本のレーザー、空中で隙だらけの鵺に直撃するかに思われた。
しかし、
「ふんっ」
突然、鵺の背中から黒い翼が生えた。それはデビルテングのもの。
彼は羽ばたいてレーザーをかわすと、斧を振り上げていたミノグランデへ飛翔する。
――ガアァァァァァッ!
斧は勢いよく振り下ろされるが、鵺には当たらず。
「邪魔だと言っている――」
その頃、城の玉座に座る悪魔は、侵入者の存在に胸を躍らせていた。
玉座以外なにもない真っ白で殺風景な空間は、歓喜の笑い声で満たされている。
「クククククッ。面白いなぁ、少しは僕を楽しませてくれるといいんだけど」
そう言って悪魔は立ち上がる。
その者は悪魔と言うには、あまりにも奇怪な恰好をしていた。
背丈はせいぜい人間より少し高い程度で、カラフルな縞模様の奇抜な衣装。青年のような若々しい顔立ちで肌は白く、左の頬に黒のスペード、右の頬に赤のハートが刻まれ、頭には湾曲した角が生えている。さらに、その上に赤いシルクハットを乗せていることから、まるでピエロのような印象を受ける。
だが、背に大きくて禍々しい灰色の羽が生えていることから、上級の悪魔であることは疑いようがなかった。
彼がニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら扉を見つめていると、すぐに開き鵺が現れた。
「やあ、侵入者くん」
「……なんだ貴様は」
鵺は悪魔を見ても、特に動揺することなく平坦な声で問いかけた。そんな態度に悪魔は笑いを堪えながら答える。
「ご挨拶だねぇ。普通は訪問者の方から名乗るものじゃないのかな? まあいいけどね。僕は『メフィストフェレス』。魔王さまに仕える最上級の悪魔さ。長いからメフィストでいいよ」
そう言って慇懃に頭を下げると、メフィストは二ヤリと不敵な笑みを作った。
聞きなれない単語に鵺はわずかに眉をしかめる。
「メフィストフェレス、魔王……初めて聞くな。凶霧の新種か」
「うぅん? どうやら君は命が惜しくないようだね? そんな侮辱されたら、すぐに殺しちゃうよ?」
メフィストは表情を変えはしなかったが、纏うオーラに怒気を孕ませた。徐々に大きくなっていく存在感は、その見た目から想像できないほど強大だ。
鵺はいつでも攻撃できるように身構える。
「貴様が何者かは知らないが、他と同じように喰らうだけだ」
「君、僕のことなめ過ぎだよ。僕からすれば、君のことなんて全てお見通しだっていうのに」
「なに?」
「名前はヌエ。中央の都市の地下を住処にして、色んな魔物を喰ってる。最近では北側の砂漠を荒らしていたよね」
「っ!」
得意げに語るメフィストに、鵺は初めて驚愕した。
「なぜ貴様がそれを知っている?」
「さぁねぇぇぇ。僕を喰えば分かるんじゃない?」
そう言ってメフィストは、目の前に高速回転する灰色の球体を生み出す。
鵺はそれ以上なにも言わず、地を蹴った。
外套からは顔のない魔獣が飛び出し、背中からは十数本のサソリの尾が飛び出て、一斉に襲いかかる。
しかし、メフィストの出した球体の中から無数の腕が飛び出した。
「デーモンハンド」
次々飛び出した野太い灰色の腕は、サソリの尾を掴むと、いとも簡単にへし折る。
さらに鵺の出した魔獣の頭に触れるが、鵺は横へ跳んで回避。魔獣を内側へ仕舞うと大きく後ろへ跳んだ。
「へぇ、少しはやるじゃない」
息を吐く暇もなく、デーモンハンドは一斉に解き放たれ、鵺へ襲いかかる。
鵺はサソリの尾や蛇、翼を出して対抗するも、数分と保たずに全てをもぎ取られた。
「ざぁんね~ん。これで終わりかぁ」
楽しそうに笑いながら言うと、メフィストは手に巨大な鎌を作り出し、手足をもがれて瀕死状態の鵺へ振り下ろした。
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