不穏な噂

 それから柊吾は無理することなく、設計図の作成に集中した。

 それは数日後、ようやく完成した。

 シモンやファランをはじめとして、鍛冶屋組合や討伐隊技術班らを集めて説明すると、彼らは電磁加速という未知の技術に半信半疑ではあったが、誰もが認める設計士の言うことに反論はしなかった。

 それだけ自分のカムラでの信用が高まっているのだと、柊吾は自覚する。

 とはいえ、信頼だけで兵器が作れるわけもないので、柊吾は簡易的な実験装置を作り、電磁加速による投射の有用性を証明した。適切な素材と構成ができれば、今以上の飛距離が期待できると。

 そして、主要な鍛冶屋や技師たちに『電磁誘導』の原理を説明すると、早速新兵器の開発を進めるよう指示した。

 必要な部材は、オリハルコン、蓄電石、アラクネの糸、イービルアイの目玉、その他の高硬度な素材など多数。

 ダンタリオン攻略の準備は少しずつだが確実に進んでいくのだった。



「――な、なんだって!?」


 突然、シモンに驚愕の事実を告げられ、柊吾は思わず大声を上げた。

 新兵器の開発のことではない。

 もっと別の問題だ。

 

「俺だって、にわかには信じられないが、そう掲示板に書いてあったんだよ」


「そんなことがあり得るのか?」


 柊吾は、新兵器開発の状況を確認しようとシモンの鍛冶屋を訪れていたが、進捗は順調だと聞いた後、驚愕の事実を告げられた。

 

「明けない砂漠の黒い霧が明けただなんて……」


 それはつまり、霧を発生させる元がいなくなったということ。砂丘に霧撒く凶蛇竜アンフィスバエナになにかが起こった。冬眠でもしたか、移動したのか、それとも――


「――誰かが倒したのかもしれない」


「そんなことありえない! 奴は、ダンタリオンやユミルクラーケンと同等の存在と言っても過言じゃないんだぞ。あんなの、そう簡単に倒せるもんか!」


 柊吾は少しばかり冷静さを欠いていた。しかしそれも当然だ。アンフィスバエナを直に見た者でなければ、あれを倒すということがどれだけ非現実的なのか分からない。

 だがシモンは、現に霧は明けていると言う。

 柊吾は居ても立っても居られず、鍛冶屋を飛び出した。


「俺が確かめる!」


 柊吾は家へ戻り、急いで出発の支度をした。

 ありったけのエーテルをポーチに詰め、バーニアを装着し大剣を背に納める。

 そんな主のただならぬ様子に、デュラは立ち上がり彼の後ろに歩み寄った。共に行こうとしているのだろう。

 しかし柊吾は迷う。

 砂漠を飛び回るのであれば、機動性が最重要。それも全速力の推力走行について来れる速さが必要なのだ。デュラの足では到底追いつけない。


「すまん、デュラ。今回は俺一人で行く」


 そう告げると、デュラはハッとしたように肩を震わせた。せがむように首を横へ振るが、柊吾は「悪い」と言って紹介所へ急いだ。

 後ろでガシャンと大きな音がしたが、気にしていられない。


「――しゅ、柊吾さん? どっ、どうしたんですか!?」


 血相を変えて飛び込んできた柊吾に驚いたユリたちだったが、柊吾がなにも言わず適当なクエストを選んで受注すると、すぐに手続きをしてくれた。

 素早く手続きをこなすユラの隣で、ユナが恐る恐る問う。


「お、お急ぎですか?」


「いえ、少し気になることがあるんです」

 

 柊吾はそっけなく答えると、渡された受注書の控を持って砂漠へ向かうのだった。

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